~書こうか書くまいかと、何日も考え続けたお話~
どこから書けばいいのか・・
先ず《ライガー》の話をしましょう
お盆の入り、8月13日に《ライガー》がネバーランド軍団を迎える時の写真を覚えていらっしゃるでしょうか
私はこのようにしっかりと目的を持って何かを見つめる《ライガー》の瞳を久方ぶりに見た
《ライガー》は免疫不全という不治の病を発祥してから1年半になる
この冬くらいまではキッチンで料理の手伝いなどもしていたが
その後は、常に空ろな目をし、誰かと遊ぶこともなく、ひとりでいることが多くなっていった
口内炎によって口の中には夥しい血豆が出来
それがつぶれて、彼の口のまわりはその粘液が固まって乾燥したもので常に真っ黒だ
激しい痛みのために顔は絶対に触らせない
もし触ろうとすれば気が狂ったように暴れる
たまに顔を拭く《ライガー》の両手もまた黒い塊で覆われている
人の手が顔に伸びるのを恐れて体さえも触らせないため、毛はバサバサで無数の毛玉が束になっている
そういう悲惨な状態なのでブログでの出番も少なくなった
何かの拍子で黒ずみが取れている時があって
その時に写真を撮ったものをたまにここで載せるくらいだ
あまりの汚れ様に、時に麻酔をかけてでも体を綺麗にしてやりたいと思うこともあった
ステロイド注射を打てば数日は調子が回復するが、3日ほどすると加速度的に元の状態に戻ってしまう
ステロイドを打ち続ければ終いにはそれも効かなくなる
いっそ歯を全部抜いてしまったほうが楽なのかとも考えた
それでもこの現状の中でやるだけのことをやってみようと
水には口内炎に効くという液体の笹の葉エキスを濃い目に混ぜ
食事はすり身のものを小豆粒大にして一口ずつ手から食べさせる
それ以上大きくても食べられないし、手で丸めて人肌にしないと歯に沁みて食べられないのだ
朝とおやつはガンとして食べず
それだからどうしても食べさせなければならない夕食は、このようにして裕に30分を掛けて、付きっ切りで与える
状態が悪くなってきたこの一年、私は毎日それを続けてきた
へこたれそうになって、注射に頼ろうかと思った時もあったが
何とか続けた
8月に入ると、暑さで更に食欲が減退し、いよいよ病院に行くしかないのかと憂鬱になった
そんな状態で迎えたお盆の入り
いつもは登れないテラスの手すりに
しっかりとした眼差しで西の空を見つめる《ライガー》の姿があった
その夜
《ライガー》が私に 「ごはんをちょうだい」 と言った
自らご飯を欲しがるのは2年振りのことだった
その 「ごはん ちょうだい」 とひと言が、私をどんなに喜ばせたことか・・
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お盆の後暫くして
《チャンドラ》がテラスから落ちて2日間身を潜め
《インドラ》が何回か《チャンドラ》を探しに出ていた
落下から一夜が開けたその日の夕方
私はアトリエで仕事をしていた
《ジンジン》が《チャンドラ》がお化け屋敷の屋根で鳴いていると知らせに来て
私はアトリエを出てお化け屋敷に向かった
そこに向かう時、《インドラ》がついて来た
《インドラ》は私を先導し、お化け屋敷の階段上に向かった
何度もこちらを振り返りながら
空き室になった部屋が左手に続く外廊下を突きあたりまで行くと
そこには下の階に行く鉄の階段があり、その半分は壊れて崩れかけている
その階段を降りるところで、《インドラ》は悲しい目をして足を停めた
それはほんとうに悲しい目で・・ 振り返った私を驚かせた
そこから向うに端には魔女家があり、それが見えるお化け屋敷の屋根に《チャンドラ》がいると《ジンジン》は言ったが、既に屋根には《チャンドラ》の姿はなかった
下に降りたのだろうか・・
私は壊れかけた階段を用心深く降りて行った
《インドラ》もついて来るかと思ったが、振り返るとその姿はもうどこにもなかった
鉄の階段の最後のニ段は完全に崩れた状態で
そこから目を落とした先に、散らばった白いものが見えた
それは、骨だ・・
手に取ると、それは猫の骨だった
夕暮れが迫り、お化け屋敷の暗い場所でよく見えないのと、アトリエに生徒を待たせているのもあって
私は見える限りの骨を側にあった金属製の箱に入れ、アトリエに戻った
翌朝、また来るから、それまで待っててね、と声を掛けて、取り敢えずその場を後にする
家の前まで戻ると、そこに《インドラ》がいた
じっと私を見つめる《インドラ》の悲しい目は
私に何を言いたかったのか・・
明日につづく