魔女
遠くの村から次々と女性たちが集まって来た
中には3日を歩いてここに来た人もいた
彼らが私に会いに来るということを、私はこの時まで知らなかった
彼女たちはダリット(アンタッチャブル)といい、カーストさえも与えられない民たち
つまりヒンドゥー教カーストの外側に位置し、最も差別された扱いを受ける
いわゆる不可蝕民と呼ばれる人々だ
※ ダリットは穢れたものとして扱われ、宗教的にも、社会的にも、そして経済的にも抑圧されている
ダリットとは彼らが自らをそう称していて、ダリットはサンスクリット語ではアスブリシュヤと言い、それは「押しつぶされた人々」という意味だ
同じ人間であるのに社会からは非情な差別を受け、特にインドにおけるそれは甚だしい
中でも特に女性の地位は男性に比べてさらに低く見られている
ここに集まったのは、そういった差別を失くし、人間としての地位を向上させるべく勇気を持って立ち上がろうと決めた女性たちだった
けれど彼らにはなす術がわからない
私たちは先ず何をどう始めたらよいのか・・
彼らは真剣な眼差しの中にも大きな戸惑いを見せていた
彼らは読み書きが出来ない
教育の場が与えられない(与えられなかったではない)のだ
ネパール政府はカーストに関係なく誰にでも等しく教育を受ける権利を謳っているが、現実は違う
ネパールは多くの郡に分かれている
政府としてはそれぞれの郡にいささかの予算を与える
郡の中でそれはまた細分化されたりもする
そこにはダリットのための予算も含まれている
問題は・・
ダリットたちの文盲をいい事に、役人や領主たちがその予算を横取りするところにある
文盲であるということは、かくも理不尽を強いられる
そういった現実を含めて、彼らの地位を向上させるには早急に読み書きを覚えることだ
何一つ取っても、それがなければ訴える術さえわからない
政府が謳っている法律も、彼らにとっては無きに等しく、その恩恵に与ることさえできないのだ
政府は諸外国との兼ね合いもあり、法律の中には彼らの権利を擁護するものもある
それがある限り、彼らはその不当を訴えることも出来る筈だ
ただ読み書きができ、知識を増やしさえすれば・・
仕事にしても、必死で何かを作り、買い手を見つけても
その料金を誤魔化される
少なくとも足し算と引き算、それに掛け算を加えた数学も必要だ
私がそんな話をしている時・・
傍らにいた男性が 「私が彼らに読み書きを教える」 と言って立ち上がった
私は学校を卒業して家の手伝いをしている女の子に、彼らに計算のやり方を教えて欲しいと頼のみ、少女は承諾した
先ずはそこから始めよう
彼らは仕事を終えた夜に、一箇所に集まって読み書きと計算の勉強をすることなった
家の遠い者は、ここから先に住む者が、そしてまたその先に住む者が・・と日にちを決めて順に教えてゆく事にした
日にちを決める、というのが一番肝心なことで
それが決められてないと、何もかもが有耶無耶になってしまう
本来なら小さくてもいいから彼女たちのためのフォーラムが必要だが・・
彼らの殆どは自分たちの土地さえ持っていない
私はそれを学校の教室の一部屋を使わせてくれるよう、先生に頼んでみることにした
彼女たちの話を聞いている時の眼は真剣だった
始めは深刻な顔をしていた彼女たちに笑顔が見え始めた
目いっぱいのおしゃれをしてやってきた女性たち 美しいです
こういった取り組みは、他の部落にも影響を及ぼす
どこかでそれが成功したとなれば、また他のダリットにも勇気を与えることになる
彼女たちにはその先駆者となって欲しいと願う
希望を望むなら、それに向かって自分の足で歩き出さなければならない
彼女たち自身と、その子供たちのために
己の置かれた立場を嘆いているだけでは一生笑顔にはなれないのだから