ネパール日記  ~ いつも一緒に ~ | まじょねこ日記

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魔女

まじょねこ日記-Machhendranath
人もまばらな暗い境内で

魔女と《バブー》はずっと一緒にいた


《バブー》は魔女の膝を両手で抱え、そこに顔を乗せて眠っていて

魔女は《バブー》の頭や体を撫でていた


気が付くと辺りには人の気配もなくなっていた

そこにあるのは

夜の冷たい空気と、月明かりと、静寂と

そして良い時間だけだった


そんな心地良さに水を差すように・・


魔女の斜め後ろ

マチンドラのゲート付近に何か気配を感じた

だが、足音は何もなかった


暫くすると

右手に揺れる人影のようなものがぼんやり浮かび上がった


それは月明かりに照らされ

ゆらゆらと揺れながら寺院の正面にある女神像をまわりこみ

ゆっくりと私の前に姿を現した


その女は・・

異常に痩せており、窪んだ目を大きく見開いていた


一枚の木綿の布をぐるぐると体に巻きつけ

裸足で、頭には様々な種類の花を挿している


私はその女を見詰めた

異様な女は、ぎらぎらした目でこちらを見据え

それから片方の口元を微かに上げて薄ら笑いを浮かべた


昼間の疲れからか、《バブー》はぐっすり眠っている


女はこちらに向かって魔女から1メートル位の所に不安定な様子で立ち

ゆらゆらと揺れながら、棒切れのような手を差し出してきた


私は女に向かってゆっくりと首を振った

女は差し伸べた手を何度も揺らし、金をくれという仕草を繰り返した

私は女を見詰めてまた首を振った


女は薄ら笑いを浮かべたまま、やはりゆらゆらしながら近づいて来た

そして、細い指で私のブレスレットを指した

それをよこせというのだ


間近で見た女は、まるで骨と皮だけで作られたようだった

それに見開い目は全く瞬きをしない

まだ20代だと思われるが、よく見ると既に老婆のようにも見える


手出しをしたら速攻で骨がばらばらになりそうだ・・


女が魔女のブレスレットに手をかけようとし

魔女がその手を掴もうとしたその時


低い唸り声が聞こえてきた

それは魔女の膝の上から聞こえた


《バブー》が唸りながらゆっくりと顔を上げた


それまでの薄ら笑いが突然恐ろしい顔に変わり

女は異様な目で《バブー》を睨みつけた


どのような犬でも、人間に服従するように躾けられる

女は《バブー》を威嚇しようと、恐ろしい形相で痩せた拳を振り上げた

女にとっては、それで済むはずだった


しかし彼女の意に反し、《バブー》は牙を剥いて立ち上がった

そして低い唸り声と共に椅子から飛び降り

魔女の前に立ちはだかって更に大きく牙を剥いた


女はゆらっと後ずさりをした

《バブー》が一歩前に出る

女はまた後ずさりをする

《バブー》は牙を剥き、唸り声を上げて向かって行った


既に女の顔には恐怖の色が浮かび上がっていた

女は《バブー》に背を見せないようにしながら移動した


すると《バブー》は女の前に回り込み、牙を剥きながら前にも増して吠え付いた

女は慌てて方向を変える


そうやって《バブー》は、女をゲートの方に追いやり

女はぎこちない動きになってカタカタとゲートから出て行った

《バブー》は女の後を追い、その後姿にむかって大きく吼えながら彼女が遠ざかるのを確認し、戻って来た


そしてまた、魔女の膝に顔を乗せて眠ってしまった

その寝顔は先程までの勇ましい顔とは違って

いつもの可愛く無邪気な顔に戻っていた



あの女性はジャンキーだ

カトマンズの夜には、時々あのような目をした女性に出会う

昔、そんな日本人の男を見た事がある

別に人に物をタカっていたわけではなかったが

路地裏にうずくまり、空ろな目をして異常なまでに同じ動作を繰り返していた


どうにかしてやれないの・・ と、その時日本人の誰かが呟いたが

あれは自己責任だ


最近も、ミュージシャンだと称する若い男(日本人)

今夜一緒にハッパ パーティーをやらないか、と誘われた

誰に向かってものを言っている・・


彼と一緒にいた取り巻きの若者(ネパール人)

「彼には気をつけるように」 と、そっと私に囁いた


地元の若者を集めてろくでもないことをしていい気になってる日本人

街のガキどもがチヤホヤするのは、あなたに対してじゃなくてあなたがバラ撒くお金に対してですから


多くの旅人(日本人に限らず)がいて

残念ながら・・ そこにはまた異なった目的もあるのだ


人によって、ものを見る目も感じる心も違う

なんだかな・・


何はともあれ

この日は《バブー》の強さを目の当たりにして、感動もし

またその成長振りに嬉しさもひとしおだった


いろんな意味で・・

《バブー》のことで頭がいっぱいだった日のこと