ネパール日記 ~ 旅人たち Ⅰ~ | まじょねこ日記

まじょねこ日記

魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください

魔女


タイ、バンコク国際空港がまだドムファンだった頃

そして10年振りにタイ航空を利用した時のお話


魔女は夕刻の空港に降り立っていた

カトマンズ行きのタイ航空の便が翌朝なので、ここバンコクに一泊しなければならなかったのだ


格安チケットを発行してくれる旅行会社の社長さんは、バンコク泊経由カトマンズ入りの度に、ちょっとしたホテルを朝食付きで無料提供してくれていた

その初回での出来事


ドムファン空港に到着し、一刻も早くホテルで休みたかった

が・・ どこを探しても社長さんがくれたホテルクーポンが見つからない

ヤバッ! 家に忘れて来たぞ!


ホテルの名前も覚えていない・・

どーしよう・・ どーしよう!


空港の案内所に行き、バンコクのホテルのリストを見せてもらった

見ているうちにホテルの名前が思い出せるかも知れない、と思ったからだ


だが、たくさんのホテル名を見ているうちに完全に分からなくなった

逆効果だった・・


確かホテルの送迎マイクロバスが来ると言っていたから、それらしきバスが来たら確めてみる他ない

しかし、送迎バスらしきものはいくら待ってもやっては来なかった


案内所の横にヘタり込んでいる魔女に

向こうのカフェから優しそうな顔をした白人のおじいさんが手招きをしているよ


そばに行ってみると

その大きな体のおじいさんは上機嫌でビールを飲んでいた

テーブルの上には4~5缶のビールの空き缶が乗っている


おじいさん 「君も誰かを待ってるのかい?」


魔女 「ホテルのバスを待ってるの」


おじいさん 「ずいぶんやって来ないようじゃないか」


魔女 「私・・ 自分の泊まるホテルの名前を忘れたの」


おじいさん 「ひえ~! こりゃあ愉快な人だ!」


魔女 「ちっとも愉快じゃないよ・・」


おじいさん 「人生は長い! 一緒にビールを飲もう!」


魔女 「私、お酒は飲めないんだ」


おじいさん 「つまらん人だな・・ ま、いいやジュースを飲みなさい」


魔女 「ありがとう・・ おじいさん、どこから来たの?」


おじいさん 「イングランドじゃあ~!! あなたはどこから来たんだ?」


魔女 「日本から」


おじいさん 「日本経由か」


魔女 「違うよ、日本から来たの!」


おじいさん 「・・」


魔女 「なによ・・」


おじいさん 「まあ、いいや、 わしはもうかれこれ2時間もこうやっておるんだ」


魔女 「ビールの空き缶が物語ってるね・・」


おじいさん 「もう酔っ払っちまったよぉ~!」


魔女 「なんで2時間もここにいるの?」


おじいさん 「出迎えのガイドが来ない・・」


魔女 「えぇ~!! おじいさん、どうするの!」


おじいさん 「おまえさん、人の心配をしてる場合か?」


魔女 「あぁ・・」


おじいさん 「お~い! お姉さん、もっとビールおくれぇ~」


魔女 「まだ飲むの!」


おじいさん 「連れがいるとビールが旨い!」


魔女 「おじいさん、そんなに飲んだら、それでなくても出てるお腹がもっと出っ張るよ」


おじいさん 「わあ~はは! あんたは愉快だなあ」


魔女は結局、カフェでこの陽気なおじいさんにジュースを奢ってもらいながら相当愉快に過ごした

それでホテルの事をすっかり忘れてしまった


それから相当な時間が経ち・・

やっとおじいさんのガイドがやってきた

早めに来ておじいさんを出迎えなければいけなかったはずのガイド

その表情がこわばっている・・


ガイド 「申し訳ありません、道が混んでいて・・」


おじいさん 「ほう・・」


ガイド 「時間がありません、さあ、行きましょう」


おじいさん 「やだ」


ガイド 「へ・・?」


おじいさん 「この人を残しては行けない、なにしろ自分の泊まるホテルが分からなくなっちゃった人じゃからな」


ガイド 「この方・・ 誰ですか?」


おじいさん 「知らない」


ガイド 「知らない人なんですか!」


おじいさん 「わしの退屈な時間を楽しくしてもらったからな、わし、まだ行かない」


ガイド 「行かない・・たって」


おじいさん 「君もここで待ちなさい」


ガイド 「どのくらい待つんですか!」


おじいさん 「君がわしを待たせた時間ほどだ」


ガイド 「・・」


おじいさん 「文句なかろう?」


ガイドは何も言えなかった


おじいさんがはしゃいでる

ついでに魔女もはしゃいでる

しかしガイドの顔は引きつってる


そんな明暗くっきりの私たちの3人のテーブルへ

ホテルボーイの格好をした若者が近づいて来てた


そして

その若者が魔女の名を呼んだ


おじいさんが手に持っていたビールの缶を持ち上げ、私に向ってにっこりと笑った

ホテルボーイはバスが待っているからと私を促した


ここでお別れだね・・

おじいさんはそれまでのおどけた表情から至極真面目な顔つきになり

「良い旅をなさい」 と言って、その大きな手を振ってくれた


バスに向う途中、後ろからおじいさんの声が聞こえた


「お姉ちゃん、ビールもう一本~!」


おじいちゃんのリベンジ・・

あっぱれ!