魔女
![まじょねこ日記-Babu-11](https://stat.ameba.jp/user_images/20090621/16/majo-cats/1e/8d/j/t02200258_0350041010200509151.jpg?caw=800)
帰国も近づいたある日
マチンドラからの帰りが夜になろうとしていた
暗い夜道にもすっかり慣れた・・
マチンドラナート寺院の門から外の通りに出ると、《バブー》がついて来ていた
魔女はいつも通り、ママと一緒に見送りに出た息子のラーズに《バブー》を引き止めておいてくれるように頼んで人ごみに混ざった
この日は土曜日だったのか・・
とにかく、通りはいつになくごった返していた
アサンチョークに差し掛かろうとした時
こちらを見上げて嬉しそうに隣を歩く《バブー》に気づいた
「《バブー》・・ ついて来ちゃったの!」
《バブー》はすっかり力も強くなり、もうママでは引きとめ切れないからラーズに頼んだのに
青年のラーズにも引き止められなかったのか・・
アサン市の雑踏で《バブー》を撒こうと努力したが無駄だった
そういえば・・
これまでも何回か人の手を振りほどいてついて来たが
それはタヒティチョークまでだった
《バブー》のテリトリーは最大そこまでだ
そこまで行ったら帰るだろうと考えた
魔女はこちらを見上げながら隣を歩く《バブー》の頭を撫でながら歩を進めた
タヒティチョークだ
《バブー》、さよならね
またマチンドラに行くから今日は帰るんだよ
《バブー》は魔女の前に座ってそれを聞いていた
私は歩き出した
決して振り向かないように頑張った
暫く歩いて、もういいかな・・
そう思って振り向くと
人込みに行き交う大勢の人間の中に魔女を探す《バブーの》姿が見え隠れしていた
前を歩く人々や後ろからやって来る人々の匂いを懸命に嗅ぎながら、立ち止まったり、振り返ったりしている
その姿に心が痛んで駆け寄ってしまいたい右脳を、めったに活用しない左脳がやっと出番が来た、とばかりに必死で押さえていた
私は走った
人ごみをかき分けて走った
タメルに差し掛かるところまで走ってやっと振り向くと
・・《バブー》が後ろにいた
《バブー》はしゃがむ私に向って、懸命に『お手』をしてみせた
「《バブー》、ダメなんだよ・・ 一緒には帰れないんだよ」
そんな事をぶつぶつとつぶやいているところに・・
「《バブー》! まじょ!!」 と賑やかな声が聞こえた
見ると向かい側からマチンドラ付近に住んでいる子供たちの集団がやって来る
私は彼らに駆け寄って
「お願い!《バブー》を連れて帰って」 と頼んだ
子供たちは6人がかりで《バブー》を押さえてくれた
「《バブー》、帰るよ! 僕たちと一緒に帰るんだよ!!」
私は子供たちに《バブー》の事を頼んで、また走った
人々の間を縫うようにタメルの道を走った
しばらく走ったところで・・
後ろから犬の唸り声が聞こえ、思わず振り返った
最初にこちらに走って来る《バブー》が目に入り
次にそれを遮るように一匹の大きな犬が《バブー》の前に立ちはだっかったのが見えた
ボスらしき犬はここいらでは見かけない自分のテリトリーに踏み込んだ《バブー》に向って牙を剥いていた
その犬の前で立ち止まった《バブー》の顔が、突然勇ましくなった
唸り声を聞きつけて、路地から数頭の仲間の犬が出て来た
彼らは唸りながら《バブー》の前に立ち、ここから先には一歩も行かせない意思を、その恐ろしい顔つきで示した
これでは《バブー》も進むことが出来ない
私は《バブー》が黙って引き下がってくれる事を願った
そして、喧嘩が始まった時の事を考え、その場を離れられないでいた
大きな犬が牙を剥き、唸りながら《バブー》に向って前進した
だが《バブー》は一歩も下がらなかった
その犬の目の前で自分も牙を剥いた
以前のあどけない姿からは想像も出来ない《バブー》がそこにいた
《バブー》は、半年見ない間にすっかり立派な大人になっていた
双方の唸り声は高まるばかりで
通行人たちも彼らのまわりを大きく避けて歩いている
喧嘩になったらどうやって止めよう・・
私は言葉が通じないと分かっていながら彼らに向って言った
「《バブー》、もうやめなさい! 帰りなさい!」
「みんなもやめなさい、喧嘩しないで!」
それでも《バブー》は・・
この犬たちに背を向けようとはしなかった
つづく