魔女
ネパールに発つ数日前になると
レストランを営むラクスマンとデイブからのメールが頻繁になる
《到着翌日の朝食は何が食べたい？ どんなフルーツを用意して欲しい？》
《朝食はヨーグルトとバナナポリッジで。 フルーツは任せる》
《了解！ じゃあフルーツは魔女が大好きな美味しいマンゴーを用意しておくよ。 店が始まる前に一緒に朝食しようね。 で、夕食は？》
《そうだな・・》
メールの内容は、こんな風に食べ物の事で埋め尽くされる
やはり地元の人間は目が高い
質の良い品物を商う店を良く知っている
以前も美味しいぶどうを食べさせてやる、と言って
ラクスマンとデイブが雨の中、ブドウを買いに出掛けた
しかし、なかなか帰って来ない
ブドウだったら直ぐその先の角でインド人が自転車の籠に山盛り売っていたし
その先に果物屋もあるのに
いったいどこまで買いに行ったのか・・
びしょ濡れで抱えて帰ったブドウの
その美味しさといったら・・
たかがブドウとは言わせないぞ
と、ブドウが舌の上で自己主張をする
魔女とその時一緒だったたまちゃんはこれをガツガツ食べた
遠慮も吹っ飛ぶ美味さだった
見かけはたいした事ないブドウなのに
手が・・ 手が止まらない・・
ラクスマンが笑いながら言った
「２人とも、まるで猿みたいだよ」
ここでの果物の美味さは筆舌に尽くし難い
バナナをしても日本のそれとは味が違う
木で熟したものを時間を於かずに食べると、これほど違うものかと驚く
６～７月頃は、エダにたわわに実ったライチが店先や道端で売られる
枝つきが一束（５枝位）で５０Ｒｓ（￥７０～８０）
一人ではとても食べきれない量だ
新鮮なライチは果汁がいっぱいでたまらなく美味い
ラクスマンが自宅に招待してくれた
魔女が無類の果物好きだから、彼は先ず考える
さて、どんなフルーツを用意しようか・・
この時期の果物はリンゴや梨、柿、みかんなど、日本にもあるものが多い
何か珍しい果物はないか・・
そうだ、ジャック フルーツだ！
彼はジャック フルーツを探した
それはなかなか見つからず
当日の朝になって、やっと見つけた
ジャックフルーツはアサン（食の市場）などでも売られているが、大概野菜用の熟していないものが多く
ラクスマンが毎日探し歩いたのは熟したフルーツ用のもので
これは大きくなると３０～５０㎏にもなる世界最大の果物だ
ラクスマンはジャックフルーツを木に実るパイナップルと例える
実際切ってみるとパイナップル風だが
これはパラミツといって、クワ科パンノキ属の樹木の果物
原産地はインド西部
昨今ではアフリカやブラジルでも見られるが
中身が、ちょっと違ったように思う
やはりこの辺りで採れるものが一番美味しいらしい
これを・・
魔女は初めて食します
ラクスマン、ゴチになりやす！！
なんだ、こりゃあ～・・ うまぁ～い 
どろどろ食べる・・
どろどろ食べる・・
どろどろ・・
ん・・？ 何ですか？ その目は
ラクスマン、デイブの奥様方、ギタとプナムが
口をひん曲げ、ゾンビでも見るような目で私たちを・・
魔女 「ギタ、プナム、最高に美味しいよ、一緒に食べよう」
奥様方 「いやだ・・ いらな～い」
ジャックフルーツを切リ分けた物
熟れた果肉は強い匂いを放ち、このように糸を引く
魔女が種を欲しがったので、種を探してみんで突っつきまわしてしまい、見るも無残な姿になってしまったジャックフルーツ
後日のデイブ宅では、魔女のリクエストでザクロを用意して貰った
見かけは日本のと変わらない色、大きさのものから
巨大なピンクのザクロまで、色々だが
デイブが用意してくれたのは
柔らかい種のザクロ
これは種ごと食す
だから面倒がなく、食べやすい
実だけを取って皿に入れてくれるので、スプーンで食べる
もちろん文句なしの美味さ
私たちは帰国直前、最後の挨拶をしにギリンチェ（彼らの経営するレストラン）に行った
デイブはその時もザクロを用意して待っていてくれた
自然の食べ物は実に美味しい
魔女、ここでは至上の贅沢を味わう
そんな時、自分は世界中の誰よりも裕福なのだと実感する
たった今、デイブからメールが入った
日記を中断して読む
《魔女、３月に来る時は何が食べたい？ フルーツはアングル（ブドウ）でいい？ あと、ザクロも用意しておくからね》
ぞわっ・・ 以心伝心か 