魔女
弟の誕生と話が前後してしまうのだが
越して来て少したった頃
ある問題が起きた
父 「この子は、いったいどうしたんだ!」
母 「今頃気づいたんですか・・」
父 「ブードゥ教の人形みたいじゃないか!」
母 「なんて事を! せめて死に掛けの座敷わらしとでも言えないんですか!」
父 「大して変わらないだろう・・」
母 「どうしましょう・・」
父 「どうしましょう・・って、君・・」
母 「可愛そうに・・」
父 「まじょ、いったいどうしたんだ?」
まじょ 「・・・」
母 「この子・・ 寝不足なんです」
父 「どういう事だ? 昼間は森や川で暗くなるまで遊んでばかりいるのだから疲れているはずじゃないか」
母 「疲れていますとも」
父 「これは問題だぞ!」
母 「問題ですわ」
父 「こんな幼い子が目の下に大きなクマを作って・・ なんと不憫なんだ」
母 「不憫? 自分は今日まで全く気づきもしなかったくせに・・」
父 「問題だ! 問題だ!」
母 「ごまかさないで!」
父 「しかし、この子に限って心の問題と言うのは有り得ないぞ」
母 「だから寝不足ですって!」
父 「どうして!」
母 「習性ですよ・・」
父 「習性?」
母 「私、何が原因だろうと昨日一日中監視してました
それで森にも川にもこっそり後をつけて・・
おかげで見てください、7回も転んであざだらけです」
父 「7回?! いい数字だなあ」
母 「何ですって!」
父 「い、いや何でもない・・ それで?」
母 「私のあざは全くの無駄でしたわ」
父 「なに? 無駄に7回も転んだというのか!
では何が無駄じゃなかったんだ?」
母 「だから!まじょは寝不足だったの!」
父 「どうして!」
母 「私、一晩中寝ないで観察しました。するとこの子は夜中に少しでも物音がすると、飛び起きて物陰に身を隠すんです」
父 「なに?!」
母 「畳で寝ているから物音が伝わりやすいんじゃないでしょうか・・ 何しろ父親が狼ですから、それで・・」
父 「父親は私だ!!」
母 「何を今さら・・」
父 「・・」
母 「とにかく、このままじゃ大変な事になってしまいます」
父 「当たり前じゃないか!」
母 「じゃあ、あなた、父親らしく策を練って下さい」
父 「策を練る・・ったって」
母 「もうっ! ベッドがいるんですよ!
あなた、この子にベッドを作ってください」
父 「ベッド・・ を作るの? 私が?」
母 「ベッドの下にはカーペットも敷いて、床からの振動を少なくするしかないでしょう。 まじょがこのままでいいんですか!やっとあなたに父親らしい役目がまわって来たんですよ!」
父 「わかった・・」
次の日・・
父は早朝から町へと出掛けて行った
そして、意気揚々と帰って来た
父が胸を張って手渡した包みのを開いて
母は呆気にとられた
中身は青いハンモックだった
その夜から、まじょは室内に吊られたハンモックで眠ることになった
父のぐうたらな策は功を征し
ハンモックはまじょに安眠をもたらした
かくして、まじょの目の下の大きなクマは次第と薄れてゆき
以前の元気を取り戻したのだった