ジンジン
魔女が小さな円盤を借りて、ご機嫌だ (円盤じゃないよ!DVDだ)
それでテレビを観るんだって (映画を観るの・・)
インジゴ 「その円盤、どうしたの?」
魔女 「くまちゃんが貸してくれたの」
水玉 「生徒のくまちゃん?」
魔女 「そうだよ」
水玉 「いつも静かに絵を描いているよね」
魔女 「ケェ~ケケッ!! みんな知らないんだ・・」
インジゴ 「なにを?」
魔女 「くまちゃんは小学生の頃は魔女のひざで絵を描いていたん
だぞぉ!」
インジゴ 「ええー! そうなの!」
魔女 「今でこそ、もの静かな大学生だけど、子供の頃は落ち着き
がなくて、ふざけてばかりで、魔女のひざで眠っちゃったりと
そりゃあ大変だったんだから」
水玉 「本当に! 信じられない・・」
魔女 「それが今じゃ・・ 魔女より大人になっちゃって・・」
水玉 「魔女、わかんない事あったらくまちゃんに聞いたりしてるよ
ね」
魔女 「・・」
僕は唯一《今日ちゃん》に襲われなかった猫だった
《ユリぼうず》以外の猫は《今日ちゃん》を恐れていて、大きくなってからはお話をしていない
一方《ユリぼうず》は《今日ちゃん》を襲っていたからお話をしていない
当時《今日ちゃん》はアトリエの主だった
《今日ちゃん》は僕にアトリエの子供たちの事をよく話してくれた
まいこちゃんは小学校1年生の時にここに通い出した
まいこちゃんがここに来た時は《今日ちゃん》は生まれてなくて
その事を当時ここにいた《ギズモ姉さん》から聞き
《ギズモ姉さん》はその前にいた《ホームズ》から聞いたんだ
まいこちゃんは、魔女の良き理解者で
意思が強くて、心の優しい子だ
成人式には綺麗な着物姿でご挨拶に来てくれた
そして今年は大学っていうのを卒業して、社会人になるんだって
マー君は4歳の時にアトリエに来た
泣いたり、怒ったり、きかんちんだったり・・
そんなマー君も《今日ちゃん》には優しかった
僕や《水玉》はマー君が小学校2年生の時に生まれたんだ
マー君はいつも魔女をてこずらせていた
マー君が小学校に入り、高学年になって塾に通うようになり
その塾の最中、よく魔女にメールを送って来た
塾の行き帰りに、魔女の喜びそうなものを見つけては写メで送っても来た
それはたいがい、トカゲだったり蜘蛛だったりするんだけど
時にはそれが、塾のトイレで発見した誰かの巻きグソだったりもした
『魔女はそんなものは好きじゃないぞ!』
と、魔女は怒りの返信をしていた
そんなマー君も今じゃでっかい中学生
みんなも驚くほど背が伸び、声も太くなって・・
魔女 「え~っと、この絵はどうなってるんだ?」
マー君 「魔女、どうしてそんな事も分かんないんだよ!」
魔女 「分かんないものは、分かんない!」
マー君 「絵を逆さに見るな、逆さに!」
魔女 「なにっ、これは逆さだったのか!」
マー君 「どういう脳ミソの作りをしてるんだ」
魔女 「脳ミソなんて始めっからございませ~ん」
マー君 「よくそれで生きてるな!」
魔女 「生きてちゃ悪いか!」
マー君 「世の中のためになってないだろう!」
魔女 「ああ、なってないさ! それがどうした」
水玉&子供たち 「やめなよ、二人とも!」
こうやっていつも仲裁に入るのは僕らと小さな子供たちだ
マー君は常に魔女に説教をする
あ~だ、こ~だ、と説教をする
説教をしながらガチャガチャで取ったガンダムを魔女にくれる
魔女がガンダム好きだからって、ガンダム模型セットもくれる
レモンちゃんも長い付き合いだ
だから、この魔女ねこ日記を恥ずかしい思いで読んでいたりする
それは魔女の失敗を読む時だ
「魔女の失敗を読んで恥ずかしくなるのなんて、
もう身内同然だあ~ね!」
魔女はそう言うんだけどね
生徒に恥ずかしい思いをさせる先生なんて
どうなのよ・・
いさむちゃんは高校生の時に絵の大学の受験のためにやって来た
高校を卒業して、絵の大学に行って
今はトーキョーで子供たちの造形教室を開いているんだよ
そして今年結婚するんだって おめでとう!
しんのすけは小学生の時に引っ越して行った
泣きながら引っ越してったって
それがでっかい男の子になって
この前、犬を連れて家出して来た
アトリエの外の階段にしょんぼりと座っていた
なんだかんだで家に戻る事になった日
「お互い、頑張って生きて行こうね・・」
と、しんのすけは魔女に励ましの言葉を残して行った
しかし、あの場合・・
僕が思うに、その言葉を言うのは魔女の役だったんじゃないのか?
小さな子供だった、たまちゃんも、今年高校を卒業する
たまちゃんがまだ小学生だった時、魔女が言った
「たまちゃん、高校を卒業する時までにお金を貯めなよ、
そしたら一緒にネパールに行こうぜ」
たまちゃんはお金を貯めた
お年玉を貯めた、バイトもした
そして3月になったら、魔女とネパールに行くんだよ
やはり小学6年の時にここに来たかおりちゃん
途中で引っ越してしまった
そんなかおりちゃんももう大学生
電車に乗って、駅からいっぱい歩いて通ってくれる
魔女よりずっとしっかりしている
優しい、優しいお姉さんなんだ
僕らはもっといっぱいの人を知っているけど、
書ききれない・・
最後に・・
《今日ちゃん》の命が短いと知って
魔女が悲しくて何にも出来なくなってしまった時
《今日ちゃん》の思い出を残そう・・
そう言って、この《ねこ日記》を始めるきっかけをつくってくれた
たっちゃん
その時、たっちゃんは絵の大学を卒業し、PCプログラマーとして就職したばかりだった
たっちゃんは高校生の時に、ここにやって来た
その後、金沢の絵の大学に入学し
大学が休みで戻って来る度に、ここに遊びに来てくれた
「先生、《今日ちゃん》のために『ねこ日記』を書いてみよう、
僕が何でも教えるから」
それはたっちゃんから魔女への精一杯の励ましだった
魔女がつぶやく・・
「日を追うごとに、みんながお兄さんやお姉さんに見えてくる・・ それどころか、お父さんや、お母さんみたいに思えてくる時さえあるんだけど・・」
僕 「ほんとうにそうだね」
魔女 「やっぱりそう思う? やっぱり、みんながどんどん年を取っ
て行ってて、魔女が若返っているのかぁ・・」
僕 「なんて単純なものの考え方なんだ!」
魔女 「人間はあっという間に大人になるんだね!」
僕 「確かに、みんなどんどんしっかりしてくるよね」
魔女 「だね・・ しか~し! 彼らをしっかりさせたのは魔女だ」
僕 「何でだよ・・」
魔女 「だって、たっちゃんが言ってたもん」
僕 「なんて・・?」
魔女 「魔女を見てると、
『だめだ、僕がしっかりしなきゃ!』 って思っちゃうんだって」
僕 「それは魔女にとって良いことなの?」
魔女 「・・」
僕 「わかんないの?」
魔女 「そんな難しい質問・・ するな!」
僕は今日、反面教師という言葉を知りました!