魔女の子供時代 ~ 別れ 最終章 ~ | まじょねこ日記

まじょねこ日記

魔女の大切な仲間の猫たちの日常をみてください

魔女


この地を去る日が近づいていた

それは両親の慌しい動きからも感じられた


まじょは残り少ない日々を、いつも通り動物たちと過ごした

しかし・・どこに行っても、何をやっても楽しくは感じられなかった


木の上の家に行っても、川に行っても、滝まで行っても

どこに行っても、どこを見ても、悲しみが募るばかりで

寄り添う動物たちを抱きしめては毎日泣いた


そんなまじょを仲間はひどく心配し

私たちはただ固まって過ごすばかりで

誰も遊んだり、ふざけたりはしなくなり

みんなが無口になっていた


動物たちには悪いと思ったが

まじょには自分の気持ちをどうする事も出来なかった


父の仕事はアーカイマさんが引き継ぐことになった

家具はそのままだったが

自分たちの物が消えてゆき

その代わりにアーカイマさんの物が置かれ始めた

それは、まるでまじょに諦めを促しているかのように思えた




明日ここを発つ・・

父からそう言われた


ひとりで森に行った

木の上の家に登った

《ソーヤ》、《トム》そして《ハックル》や《ベリー》と冬以外を暮らした家だ

一緒に月や星を見ながら眠りについた

毎晩《ソーヤ》の胸で眠った


流れ星を見た時に

ずっとここで暮らせるようにとお願いをしておけばよかった・・

そんな事を考え、ひどく後悔していた


まじょはその場所から、それ以上足を延ばせなかった

思い出が多すぎてどこにも行けない・・


はしごを伝って《トム》がやって来た

それから《ハックル》と《ベリー》がやって来た

犬や他の動物もやって来た


彼らに何とお別れを言えばいいのかわからない・・

それを思うと、また涙がこぼれた


これまで 『泣く』 などという事に縁がなかった

どんな時に涙が出るのかさえも分からなかった

涙がこんなにもしょっぱいなんて知らなかった


小さな心臓が耐え切れず破けそうだった


結局泣きながら彼らを抱きしめるだけで

彼らには言う 『お別れの言葉』 なんてどこにもみつからなかった


このままここで眠って朝になり

目覚めて、すべてが夢だったと知ったら・・

それはかけがえもない幸せだろう

そんな事ばかりを考えていた



出発の日の事は、頭が混乱していて所々しか覚えていない


覚えているのは・・

動物たちがどこかで遊んでいる間にここを出たい、と父に言った事

それと、アーカイマさんがまじょの手を取って


「《ソーヤ》や動物たちは私が見守るから心配しないで」


というような事を言って、  まじょが


「《ソーヤ》を、どうぶつみんなを、しあわせに いきさせてください」


と、生まれて初めて人間にお願いしたこと


そして

両親と、見送りのアーカイマさんと共に

大きな荷物を抱えて道のあるところまで行き

迎えの車に乗った


手を振るアーカイマさんが小さくなる・・

まじょの森が遠ざかる・・

仲間がどんどん遠くなる


これでまじょの何もかもが終わってしまう・・



その時

狼の声を聞いた


まじょは車の窓から大きく身を乗り出した

母が慌ててまじょの体を押さえた


長く・・ 長く・・ 高く・・ 低く・・ 

あれは《ソーヤ》の遠吠えだ!


姿は見えないけれど

あの崖で吠えているに違いなかった・・


まじょは《ソーヤ》の声に答えて遠吠えをした

それからまた《ソーヤ》の声に耳を澄ませた


《ソーヤ》の遠吠えはいつまでも続き、どこまでも聞こえた

長く引いた遠吠えは、悲しみを表してまじょの後を追った


この日は泣かないと心に決めていた


けど・・ 《ソーヤ》の声を聞いて

その心が砕けた 



車の運転手さんが、胡散臭い顔で何度もこちらをを振り返った

車を降りた後も、その人は珍しい動物でも見るようにジロジロとまじょを眺めまわした

これからの人生を人間の中で暮らすという現実は

まじょにとっては地獄の火あぶりなのだと感じた



父が聞いた


「《ソーヤ》は何と言っていたんだ」


「《ソーヤ》は・・ まじょをわすれない、といった。 ぜったいにわすれないといっていた。 《ソーヤ》はずっとまじょのおとうさんだよ・・って」


「そうか、それでまじょは何と答えたんだい」


「まじょも《ソーヤ》をわすれない、といった。 《ソーヤ》はまじょをそだてた たいせつなおとうさんだから・・」




こうしてまじょは

『サンダー マウンテン』 と呼ばれる住み慣れた森を後にした