ジョン ブリアン
昨日の事
《ユリぼうず》が病院から帰って来て
魔女が小さなパンを1個食べてから
ホームセンターに僕たちのご飯を買出しに行くって言った
「誰か一緒に行く猫~!」
それで僕と《ユリぼうず》が
「行く!」 って言った
《ユリぼうず》はまた行くんだって
タフだね
行く時、小さなバイクしか見かけなくて
《ユリぼうず》はつまんなそうにして、ただぼんやり外を見ていた
ものすごく大きなホームセンターに着いて
僕たちはカートっていうのの人間の子供を乗せるらしい所に乗っかってお店の中を移動した
魔女は真っすぐに僕たちのご飯売り場に行ったけど
そこも広すぎてうろうろしてるから
僕と《ユリぼうず》で
「これだよ!この缶詰、それとほら、あっちのカリカリだよ!」
なんてきょうろきょろしながら魔女に教えた
「あっ、そうか、ここかぁ・・ え、どこ? ああ、あそこね!」
僕らに指図されて、魔女は大きなカートを押して行ったり来たりしながら
広告の品の缶詰をいっぱいカートに入れた
広告の品のカリカリもでっかいのを2つ入れた
広告の品のトイレ砂もカートの下に4つ乗っけた
ユリぼうず 「ちょっと、魔女!あれ見て!!」
僕 「わあ、こんな所に大勢の犬がいるよ!」
ユリぼうず 「僕、お話しするっ!」
魔女 「こんなところにペットショップがあったんだ・・」
ユリぼうず 「お話しするっ!!」
魔女 「わかった・・」
ユリぼうず 「ねえ君、ここで何してるの?」
魔女 「《ユリぼうず》、一生懸命みゅ~みゅ~言ってもガラスがあるからあんまり聞こえないよ」
僕 「みんな子供だね」
ユリぼうず 「見て!隣の箱にいる子はちょっと大きいよ」
僕 「本当だ、この子はみんなよりずっと大きいね」
ユリぼうず 「何だか元気がないね・・ 君、どうしたの?」
僕 「変な顔だね!」
魔女 「そう? 良~く見てごらん」
僕 「・・可愛いね」
魔女 「フレンチ ブルドッグっていうんだよ」
僕 「難しい名前をつけたね」
魔女 「フレンチ ブルドッグっていうのはこの子の名前じゃなくてそういう犬の種類なんだよ」
僕 「ずいぶん元気がないね・・」
ユリぼうず 「 魔女、この子達はどうしてここにいるの?」
魔女 「・・この子たちは、ここで売られているんだ」
ユリぼうず 「・・・ どういう事?」
僕 「売られてる・・って、缶詰みたいに?」
魔女 「うん・・」
僕 「生きものを缶詰みたいに売るの?!
この子のお母さんはそれでいいって言ったの?」
魔女 「それでいいなんていうお母さんはいないよ」
ユリぼうず 「僕の母ちゃんなら言うね」
僕 「だからこの子は元気がないの?」
魔女 「この子はなかなか売れなくて大きくなっちゃったみたい」
ユリぼうず 「ずっとひとりぼっちでここにいるの?」
魔女 「たぶんね・・」
僕 「この子がここに来たいって言った訳じゃないんでしょ」
魔女 「まさか、そんな事言う子はいないよ・・」
ユリぼうず 「じゃあ、誰がこんな事をしたのさ!」
僕 「連れて帰ろうよ・・」
魔女 「・・・」
僕 「だめなの?」
魔女 「うん・・」
僕 「どうしてさ! ひとりぼっちでさみしそうじゃない」
魔女 「ごめんね・・」
ユリぼうず 「買わなきゃいけないの?」
魔女 「連れて帰るにはね・・」
ユリぼうず 「魔女、貧乏だから、無理なんだね・・」
僕 「僕たちはタダだったんでしょ!」
魔女 「命はどれも計算できないほどうんと高いタダなんだよ」
僕 「だったら・・」
ユリぼうず 「この子のガラスに何か書いてある・・
何て書いてあるの?」
魔女 「・・ 20% OFF 」
僕 「どういう意味?」
僕がそう言って魔女を見上げると
魔女の目から涙がいっぱい出ていた
それで僕は急に黙った
近くにいた人間の子供がびっくりした顔で泣き出した魔女をじっと見つめている
そんな子供に気づいたその子のお母さんは、子供の手を引っ張ってその場から離れた
隣のペットのご飯売り場の女の人が心配そうにこっちを見ていたけどそっと戻って行った
「帰ろう・・」
魔女が言った
僕はカートの上から魔女の背中の向こうの子犬を見た
その子は相変わらず寝た格好のまま、上目づかいでこっちを見ていた
そして、それからゆっくり目をつむってしまった
《ユリぼうず》は缶詰の上に乗っかって立ち上がり
必死で魔女の顔をなめている
すれ違う人たちが変な顔をして僕らの方を見た
それでもお構いなしに魔女は泣き
《ユリぼうず》は一生懸命に魔女の顔をなめ
僕は・・ 遠ざかる子犬のガラス窓をずっと見ていた
(命に値段があるの?)
そう聞きたかったけど、やめた