魔女
雷様に会いたかった魔女は
嵐の日にテラスで一晩中へそを出していて・・
肺炎になった
魔女が重体であるという知らせを聞いたアーカイマさんが
医者を伴って街から駆けつけた
年寄りの医者が
アーカイマさんに引きずられるようにしてやって来た
魔女を診察した医者は
眉間に皺を寄せて・・
「この子は助からない」
と言って、父とアーカイマさんにボコられかけたらしい
高熱で意識がなくなってからの話は、後にアーカイマさんから聞いたものだ
魔女の高熱は手を尽くしても下がらず
虫の知らせか
森からソーヤやトムもやって来ていた
ソーヤは一晩中悲しそうに遠吠えを続けたという
村長さんを始めとする村人たちも集まって来て・・
意識がないまま4日目を迎えた夜
外で騒ぎが起こった
何事かと父とアーカイマさんが外に出てみると
そこには《森の民》が、村人に囲まれてうずくまっていた
村人は口々に
「ここに何をしにやって来た!」 だの 「自分の土地に帰れ!」 だのと強い口調で言っていた
父は慌てて《森の民》を抱え起こし、衣服の泥を払った
《森の民》は村人に小突かれ、突き飛ばされながらも
胸に抱えた物を必死にかばっていた
父 「夜にこんなところまでやって来て、何か困った事でも起きたのですか?」
森の民 「いえ、先生の娘が危ないと聞いた・・」
村人 「一体誰に聞いたんだ! おまえたちの土地に行くものなどいないはずだぞ!」
森の民 「・・」
父 「どうして娘が危ないと知ったのですか?」
森の民 「狼です・・ 狼が毎夜吠えて知らせた」
村人 「狼が吠えて分かるのか!」
森の民 「吠え方で分かる、 私たちは遠い昔から狼と一緒に山で暮らしている」
父 「それでここまで来てくれたんですか?」
森の民 「渡したい物が・・」
父 「渡したいものとは何ですか?」
森の民 「森の生きもの。 私たちは熱が高い時、これを飲む」
村人 「そんなもの持って帰れ!だいいち何故お嬢さんの熱が高いという事まで知っている、それも狼に聞いたというのか!」
森の民 「いいえ、狼の知らせで、若い者を村に行かせた。そして、村の人に気づかれないように噂を聞いてくるよう言った」
村人 「何だと! 勝手に村に入ったのか!」
父 「いい加減にしなさい!」
森の民 「どうかあなたの娘にこれを飲ませて下さい!」
父 「分りました、本当にありがとう」
村人 「先生、そんなもの本気で飲ませる気ですか!!」
父 「もうだめだと言われているんだ、何だって飲ませる!」
村人 「そんな物を飲ませて、どうなっても知りませんよ!」
父 「なぜそんな事をいうんだ!」
村人 「先生こそ、何故そんなにかばうんですか、しかもどうして森の民を知っているんです」
父 「私は彼らの土地にも行っているからだ」
村人 「何だって! 彼らの土地に行くなど、とんでもない事だ!」
父 「君たちが森の民に対してそのような態度をとるのなら、私も君たちを差別する」
村人 「どういうことですか」
父 「金輪際、君たちの家の家畜は診ない」
村人 「・・・」
《森の民》は村人たちにどんなにひどい目に会っても
自分をかばう事はせず
ただ胸に抱えた壷を必死で守っていた
父にうながされて
《森の民》は小さな壷を差し出した
父はお礼を言って、それを受け取った
・・・つづく