魔女
しこたま歩いてやっと道らしき所に出た
そこは森とはだいぶ違った風景で
何軒かの家も見えた
初めて見る景色に、魔女は急に不安になり
母の手をぎゅっと握った
振り向くと家のある森が見える
魔女は走って戻りたい気持ちを必死に押さえ込んだ
しばらく待つと
向こうから土煙をあげてバスとやらがやって来た
バスは広い場所でUターンして私たちの前に停まった
絵本で見て想像はしていたが
それは魔女が思ったのよりずっと大きかった
父 「さあ、これに乗るんだよ」
まじょ 「・・・」
母 「ちょ、ちょっと、まじょちゃん、なにをしているの?」
父 「靴は脱がなくていいんだ!」
母 「そのまま乗りなさい」
まじょ 「お、おとうちゃんじゃないひとが・・」
父 「バスの運転手さんだ」
バスは発車した
外には色んな景色が広がっていたが、魔女は振り返って次第に遠くなってゆく森ばかりを見ていた
森がうんと遠くなって
魔女は隣の母の目を盗んでは頭のヒモを引っ張った
母がこちらを見るとその手を放し、母がよそを見た隙にヒモを引っ張ってそれを取ろうと四苦八苦していた
ついでに足もぶらぶらさせながら靴を脱いだ
片足ずつ使って密かに靴下も脱いだ
そんなことに徒労しているうちに・・
どんどん気持ちが悪くなってきた
今まで味わった事もない不快な気分に襲われて・・
母 「わっ! まじょちゃんが吐いた!!」
父 「なに!」
母 「吐いた!」
父 「森のブランコはひどく揺らしても平気なのにか?」
あまりの気分の悪さに
それから街に着くまでの事は何も覚えていない
途中でバスもしくは電車に乗り換え
長い長い時間をかけて、やっと街に到着した
バスもしくは電車から降りた時には、もうふらふらだった
魔女は脱いでいた靴下と靴は履かされたものの
それでもリボンというヒモは最後にむしり取って
それを座席にそっと置いて来た
しかし、気分の悪さのお陰で
人の多さや、走る車、高い建物に驚く余裕などなく
それについては幸いした
少し休んでから
母 「なにか食べましょう」
父 「この子はお腹が減っているに違いないとみた!」
母 「当たり前でしょう!すっかり吐いちゃったんですから」
それで大きな建物の中のレストランに行ったのだけれど
てっぺんのレストランまで行くのに
動く箱(エレベーター)に乗せられて・・
まじょ 「・・き、きもちわるい」
父 「なに、またか! いつもやっているターザンごっごを思い出して我慢しなさい」
母 「そんな・・ 可愛そうですよ! 降りましょう」
父 「何とやっかいな子なんだ・・」
箱から出られたと思ったら
今度は動く階段が待っていた
それはさほど気持ち悪くはならなかった
やっとレストランに着いて・・
父 「窓の外を見てごらん、 これが街だよ」
まじょ 「・・・」
母 「なにが食べたい?」
まじょ 「なんでもいいの?」
母 「何でも好きなものを言いなさい」
まじょ 「おかあちゃんのオムライス」
父 「ここではおかあちゃんはご飯を作らないんだよ」
まじょ 「・・・」
母 「とにかくこの子にはオムライスを注文しましょう」
注文をとりに来たお姉さんが魔女を見てにっこり笑った
魔女はそれがひどく恐くてのけぞった
まじょ 「わっ! オムライスにみどりのまめがはいってる!」
母 「我慢して食べなさい」
まじょ 「・・・」
母 「まあ! この子ったら、グリンピースを見事に選り分けて・・」
父 「おお! 何と器用な子なんだ」
母 「感心してどうするんですか!」
お皿を下げに来たおばさんが、皿に残されたグリンピースを見て
魔女をにらんだ
魔女は前の時よりもっとのけぞった
それからやっとカーニバルというものを見に行く事になるのだが・・
さて、次回はやっと象に会う事になります