負けたくないんですけど | 待ぢ!受けるんですけど!

負けたくないんですけど


500_200_09
第5話

食事から戻り、書類を整理していると、オツボネギツネさんに呼ばれた。
「あなたね、上の受付しばらく手伝ってくれないかしら」

え…

あの豹と、働くの…?

しかも、編集の仕事じゃなくて、受付だというのが、これまた納得いかない。
「どうゆうことですか」
しまった、露骨に嫌な顔しちゃった。
「ああ、受付豹さんが、忙しすぎて回らないからあなたに手伝ってもらえないかって相談されたのよ。大丈夫、大丈夫、事務作業のほうだから受付自体はしなくていいのよ。一週間くらい手伝ってもらって、ほんとに必要になったらもう一人増やすわ」
オツボネギツネさんは、私のいらっとした様子は気に留めもせずに言った。
態度が悪いとか、怒られなくて、助かった、けどね~。

ゆっくりと階段を上る。
受付豹がなんで私を指名したのか、わからなかった。
だって…食事の間中、彼女はず~っと・・・
熊本のこと見てた。
うれしそうに相槌打ってた。

一週間の手伝いだけなんだし…。受付はしないんだったら女性でなくてもいいだろうし…。
熊本に近づきたいなら熊本に頼めばいいのに。

私はお昼ごはんでの会話を思い出していた。
「コチラ、『元』ウチのなんばーわんあいどるダナ、ハッハッハ、受付豹サンダ」
という無神経かつセクハラ発言を社鳥ともあろうお方がやってのけた。
「しっつれいな人ね~。こんなヤツが社長でごめんね~」なんてオツボネギツネさんがフォローしてくれていたけど…
私はな~んもしてないのに、「社内のアイドル」の座を私が奪ったことになってしまった。私がどうフォローしても、受付豹が私に好感を抱くとは考え難い。
あああ…めんどくさ…。

**

「あら、すみませんね、ニャイドルさん」

受付に着くと、板に付いた笑顔で受付豹が私を出迎えた。
「よろしくお願いします」
私もにっこり頭を下げた。
つんとすました感じの美人。近くで見ると肌が荒れていたりして「あら」が目立つ美人っているけど、この豹はそうじゃなかった。整ったアイシャドウのグラデーション。お化粧のノリがいい肌でないとこんなにきれいにはならない。
唇も、くっきりとラインで彩られて、それでなくても派手な顔をさらに目立たせている。
私でも引いちゃうような大人っぽい色を、ばっちり着こなしていた。

「お化粧、きれいですね」

私は素直にほめた。けど、豹は答えない。

「何を、すればいいですか。」

「あら、あなたはまだ何もできないじゃない。私がやるから、そんなにはりきらなくて大丈夫よ」

むかっ。てか、その答えじゃ、何をどうしたらいいのかわからない。

「そのお洋服、素敵ですね」

「ああ」

ちゃんとした返事は、返ってこなかった。

書類の仕分けを手伝おうとしても、受付に来た人の案内係をしようとしても
「いいのよ」
って…。
彼女は何にもやらせてくれない。これって、意外と…ツライ。

そんなわけで…
つーか、暇…。

やることが、なーい。

やることが、なーい。

たとえば、掃除をしてみるとか? …掃除用具の場所がわからない。
たとえば、誰かが来たら受付豹の代わりに対応する。 …誰も来ないし。
眠くなってきた…。

そっちがその気なら…私は考え方を改めた。
「なんにもしないで給料もらえるし、ラッキー。」
と。

確かに、豹は、すんごいてきぱきしてる。
はじめは受付豹より先に電話を取ろうとか、担当者名を覚えようとか、いろいろがんばったんだけど、どー考えたって私が手出しすることで効率が下がるとゆーことに気づいた私は、徹底して何もしないことに決めた。

彼女のほうが仕事できるのは事実。私にやらせようって気がないんだから、気遣うだけ、疲れる。

どうせ一週間のことだし。

早く元の仕事に戻れることだけ、待っていることにした。
そのまま、何日かが過ぎた。

向こうに悪意があることの確証もないし、波風立てないでおこうと思った。
だけど、決戦の日が訪れてしまった。

* *
金曜日の午後、受付豹は段ボールを二箱、私に押しつけた。
一箱は封筒、ひと箱には印刷された手紙らしきものが入ってる。
「これ、次のセミナーへの企業様への招待状なんだけど…。封入して、宛名はりつけて、メール便で出しといてくれないかしら。今日中に。…あ、月曜朝までに。」

は?

今日中?

一瞬自分の耳を疑った。
恐ろしい分量だった。どれくらい時間がかかるのか、想像もつかない。
「え…これは無理なんじゃ…」
私が言うと、受付豹はせせら笑った。
「無理? 封入作業もできないの? これだからもう…。言われたこともできないんだったら、土日も来ればいいでしょ。新入社員だったらそれくらい当り前よ。」

ムカついた。

でも、とにかく仕事が欲しくなっていた。
なんにもせずにいるのは楽だけど、夢を持って入った会社の役に立てない自分が悔しかった。
そこまでゆうんだったら、やってやろうじゃん!

「わかりました。月曜朝までですね。」


500_200_10
私は作業にとりかかった。

**
作業自体は難しくない。もちろん。
けれど、やっても、やっても、段ボールの中に山積みになった書類は減らないみたいに見えた。もう定時なのに…まだ10分の1も終わっていない…。

受付豹が手伝いを始めた。
「8時までは手伝えるわ」
…だって。ふざけんなっ。

途中、犬リーマンさんが様子を見にきた。
「おいっ、それ、まだ終わってなかったのか」
犬リーマンさんも真っ青になっていた。
そんな重要な仕事だったのか。

「そうなんですよ、ニャイドルさんが、今日中にやるって言ってたんでお任せしたんですけど…。」
…はい、確かにゆっちゃいましたね、ばかなタンカを切るんじゃなかった…。
はあああ。後悔いっぱい。
けどここで「犬リーマンさん、できない、助けて」って言って、いいものだろうか。
なんでもいいから、やって、「よくやった」って言われるほうがよくない??
「大丈夫です、責任もって、月曜朝までにはやりますから。」
あーー。
気がつくと、口から出たのはこの言葉だったの。
「私も手伝います」
受付豹が犬リーマンさんに言うと、犬リーマンさんは、にっこり、笑って
「そうかじゃあよろしく頼むよ」
と言って帰って行った。

**
深夜。

ひとりで封入作業を続ける私。今週は、土日出勤もまぬがれないわ・・・。
平日の間あんなに暇だったのに。

ふうっ。

私は、ダンボールをちょっとどけて体を伸ばした。
疲れたあ…。

ん?

段ボールのどこからか、ひらりと紙切れが落ちてきた。

なんだろ。

手に取ると、それはオツボネギツネさんからのメモだった。
「15日、金曜までに封入終えてください。11日(月)オツボネギツネ」

え・・・

これって4日も前じゃないかあっ!

火曜にすでに頼まれてたの? 今日まで私に言わなかったのは、忘れてたから? 自分のミスを、私になすりつけようっての? それとも、わざと今日まで言わなかったの??

こ、これは・・・。       つづく