アイドルって言われたんですけど! | 待ぢ!受けるんですけど!

アイドルって言われたんですけど!


novel_005_ニャイドル
第4話

ふ、ふわーーーーっ。

翌日。パソコンの前で10分ごとに、そっとあくびをする私。
フルタイムって疲れるんだわっ・・・。
私は、ディナーメニューをひたすら入力している。
上等なディナーの特集を組むんだって。
都内50以上のレストランから、メニューの見本が送られてきていた。
それぞれのメニューから代表的なものを2,3ずつ選んで、メニューの名前と値段を入力していく。
写すだけの作業で、そのデータがどうやって使われるのか、自分がなんのためにそれをやってるのか…
よくわかんないんだけどね。

写真付きのメニューも多くて、どれもこれも、超おいしそうっ。
シャンデリアきらきらの豪華なお店がいっぱいで、そゆの見てると気分が弾む。
こんなのが送られてくるのはさすが出版社。いいお店にも詳しくなれそう。
けど、さすがにお高いのね。コースはだいたい2万円からだった。
ムリムリ、ムリムリ。私の口には当分はいらないものばっかりだ。

洋食のメニューはラ・ブルゴーニュとかセレブラ仕立てとか、意味不明でカッコいいのか悪いのかすらわからない言葉がいっぱい出てくる。けど、カタカナが並んでるだけだし、間違えないように気をつければ、入力作業はなんとかなった。問題は和食メニューだ。

よ、読めない…。

「鯖の煮付け」

…。
なんて打ったらこの字が出てくるのか、見当もつかない。
さかなへんに、青。
ためしに、「まぐろ」で変換すると出てきた感じは「鮪」。
じゃあ、「たい」はどうだっ。…「鯛」。これも違う。
「たちうお」、どうだっ…。「太刀魚」・・・全然ちがうじゃん。
だめだ…。これは、飛ばそう。次のメニューへ。

「魛のからあげ」

…。

…。

もおおおおおおおおおおおっっ!!
よめないっつーのっ!

novel_006_ニャイドル
私はそおっとあたりを見渡して、この質問を誰に投げかけるべきか、考える。
人選を間違うと、痛い目にあう。
まず目に入ったのは、「オツボネギツネ」。
…却下。
すごい毒舌でへこまされること、間違いなし。
次に横。天敵の「熊本」、こいつは無視。
私のナナメ前の席には誰もいない。本や資料が乱雑に並んでいるので、出社していないだけかもしれない。
次に「キジネスマン」。この人は、ひっきりなしに電話をかけるか、取るかしている。
「社鳥」に聞くのは問題外だと思う。
残るは一人しかいなかった。席を立ち、そっと声をかける。
「犬リーマンさん、ちょっとすみません…」
「ん??」
「これ、なんですけど…」
私は、メニューの漢字を指さす。
「ん?なあんだ、よめないのかあ! しょうがないなあ!」
シーーーーっ…声が大きいよっ、なんて言う暇もなかった。
人選、失敗…。
犬リーマンさんの声にみんな振り向き…
社内にみんなの笑い声が響き渡った。

ずーんっ・・・。

「ニャイドルさん、それ、わに、わに。」
目をあげたキジネスマンが、にやにやしながら言う。
え、えっ。。。わに!? わにの…煮付け!?
急いで席に戻って変換する。わに…「鰐」。
「違うじゃないですか!!」
「冗談だよ」
「へっ!?!?」
また、全員大笑い…。
もおおおおっ。
ふくれっつらになってると、社鳥まで悪ノリを始めた。「ザリガニ、ダヨ」
「真面目に聞いてるんですっ」
私が怒ると、また、みんな笑う。どーなってんのっ。
犬リーマンさんがやってきて、IMEパッドという画面を出してくれた。
「読めない字が出てきたら、ここにマウスで手書きして。同じ漢字が横に出てくるから、それクリックすれば入力できる。」
犬リーマンさんが操作しながら説明してくれた。たしかに、「鯖」の字が出てきて、読み方がポップアップで表示された。「さば」。なあんだ。
「ありがとうございます。」
犬リーマンさんもにやにやしながら
「はいよ」
と答えた。

どよ~ん・・・。

ほんっと何かするたびに笑われる。あたし、そんなキャラじゃなかったはずなんだけど。

「ソロソロ、昼ダナ。マンプク屋、ミンナデイクカ」
社鳥が言い出して、私は、また、どよーんとした気になる。
みんないると休めないじゃない…。
「いいですね」
キジネスマンが同意した。
「じゃ、ごちそうになりま~す」
オツボネギツネは声が弾んでいた。みんな、仲いいんだ。
早く気兼ねせずに話できるようになりたいし、はじめは疲れるのしょうがないか。
私たちが部屋をぞろぞろと出て行く。私はいそいで、ケータイと財布だけ持って、みんなのあとを追った。「上の人たち、呼んできますね」
キジネスマンは階上に…以前と同様、羽ばたいていった。
キジなんだから、しょうがないわよね。

* *
店はこじんまりした、定食やさんで、客層は100%、お昼休憩にきたサラリーマンだった。
紙に書かれたメニューにはさばのみそ煮定食1500円、とあった。
高い。それに合わせて、お客さんの年齢層も高い。

「新人は社鳥の横ね」と言われるままに、奥に熊本、社鳥、私が並んで、向かいにオツボネギツネ、犬リーマンが並んだ。
「なんにする?」
メニューをみんなが覗き込む。
「サバデイイヨ」
社鳥が言うと「じゃあ私も」「おれも」とみんなが賛同しだし、なんとなく、別のを頼みづらい雰囲気に。「じゃあ、私も」
そういうと、私の遠慮に気づいたらしい、社長が
「ナンデモ頼ンデイインダヨ」
とメニューを手渡された。

「サバ、モウ読メルネ」
「え…あ、はい」
さかなへんのメニューを見るたび、突っ込まれる運命にあるみたい。
「てゆうか、それ、重くないの?」
オツボネギツネは、机の上にあった私のケータイを指差した。
「あ、これ、大分減らしたんですけど」
じゃらっとついたストラップに、犬リーマンがぐへえっと驚いた声を上げる。
「からまりそう…」

おかしいなあ。大分まびいたのに。私は首をかしげた。ついてるのは、どれも必要なものだった。私のイニシャル、旅行の思い出、お気に入りのキャラクターポポちゃん、大好きなブランドディオールのストラップ、プリクラの入ったロケット。
だけどオジサンたちにギャル心がわかるはずもない。

novel_007_受付豹_さるバイト
そこに、キジネスマンが、受付のふたりをつれてやってきた。
ひとりは豹。背が高くて、ほっそりして、つーんとした感じの美人さんだ。
もうひとりはさる。こっちはだいぶ若そう。学生?まだ10代じゃないかしら。
「オツカレサマ」
みんな席を空けるように、少しずつ奥に詰める。
「ふたりははじめてかな。こちら、受付の受付豹さんと、アルバイトのさるバイト。」
紹介されてふたりが会釈したので、私と熊本はあわてて起立する。
「よろしくおねがいします」
「こちら、期待の新人、熊本君」
うわ、なんだその紹介は。ちょっとむかっ。
「よろしくお願いします」
熊本がうやうやしく、頭をさげる。ふーんだ、えらそうに。
そしてキジネスマンは私のほうに向きなおって…
「こちら、期待できない新人」
「なんですかそれっ!」
思わず反論しちゃった。
だって、しつれいぢゃないか~っ。
また、みんなが大笑いする。
「うそうそ、社内のアイドルのニャイドルさんだよ」
「よっ、アイドル」
犬リーマンさんも調子を合わせた。
え・・・
私はきょとんとした。
そんな風に思われてたの?
ひえええ。
「がんばんなさいよ~っ」
そういったオツボネギツネさんの言い方は、いつもどおりきっついけど、親しみも、こめられてる。
ちょっとほっとした。笑われているのは、別に悪意じゃなくて。
仲間として、ちゃんと受け入れてくれてるんだ。
大失敗の連続が、逆に功を奏したのかもしれなかった。

novel_008_受付豹
けど…それを聞いた豹が、一瞬、しかめっつらをしたのを、私は見逃さなかった…。
いやな予感が、した…。