放送されないワールドカップ最終予選-放映権戦争で負ける日本のメディア | IDEAのブログ

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【テレビ放送されなかった最終予選】

2022年3月24日、スタディウム・オーストラリア(シドニー)で行われたFIFA2022ワールドカップ・ドバイ大会のアジア最終予選、オーストラリア対日本は、2-0のスコアで日本が勝利し、7大会連続のワールドカップ本大会出場権を獲得した。

前半から攻勢に出ていたがなかなか得点できなかった日本代表は、後半終わりごろに三苫を投入、その三苫が2得点を挙げ勝利した。

試合の内容はともかく、日本が本大会行きを決めたというのに、周囲の盛り上がりはイマイチだった。24日夜のニュースでも、試合結果をダイジェスト的に扱っただけだ。私の周囲では、日本がワールドカップ行きを決めたことを知らない人も多かった。

その理由は、日本代表の試合がつまらなかったから・・ではない。

これまで7大会連続でワールドカップに出場してきた日本にとって、本大会行きを決める試合が放送されなかったのは初めてのことだ。

「ドーハの悲劇」「ジョホールバルの歓喜」に始まり、アジア代表の座をかけた試合は4年に一度の「イベント」だった。試合の数週間前から放映権を持ったテレビ局の告知が始まり、直前には特集番組が放送されたりする。特に今回は負ければ3位に転落して大陸間プレーオフに回る可能性もあり、危機的な状況だった。代表監督の森保一の進退問題さえ取りざたされる事態だった。

【なぜ、テレビ放送がなかったのか?】

今回、オーストラリアでの試合の放映権を獲得していたのは、英国に本拠地を置くスポーツ専門の大手オンデマンドメディアDAZNである。日本国内におけるこの試合の動画はDAZNが独占配信しており、間際になって試合の放送が無いという事を知ったファンは落胆の声を上げた。同時に「独占」配信したDAZNを非難する声も上がっていた。

 

2月1日に埼玉スタジアムで行われたサウジ戦に勝利した夜、日本サッカー協会の田嶋幸三会長は「ワールドカップ決定の瞬間が放送されない可能性がある。自腹を切ってでも放送したい。これは日本のサッカー人口にも影響する」と危機感をあらわにした。

だが、事態は好転しなかった。日本サッカー協会は配信元のDAZNと交渉を続けたが、DAZN側は日本サッカー協会から交渉があった事を公にした上で「ご提案内容が、既にご加入いただいているお客さまやファンの皆様にとってフェアなものではなく、両者の共通認識として交渉は既に終了していると捉えております」とプレスリリースで声明を出した。

この間の協会とDAZNとのやり取りまで公表されると、ファンやマスコミはDAZNを「強欲」と決めつけ、加入者以外は見られないという「狭量」さを責め立てる事態となった。

DAZNにしてみれば、自らの顧客である加入者を大切にするのは至極当然な話なのだが、先に書いたようにワールドカップ最終予選は日本人にとって特別なものであり「独占配信」を主張するDAZNを非難する報道は、マスコミの間からも出ていた。

【発端と経緯】

ワールドカップアジア予選の放映権を管理しているのはAFC(アジアサッカー連盟、FIFAの下部組織)だ。AFCは運営費調達と未来への投資のため、中国とスイスの資本が合弁で作った配信会社「DDMCフォルティス」と8年20億ドル(日本円で約2,400億円)という巨額の放映契約を結んだことだ。

AFCが運営資金確保のため、放映権ビジネスに進出したのは2005年、今から17年も前のことだ。日本の民放で最もサッカー日本代表の試合を放送しているテレビ朝日が同年の契約を結んだ際に支払った放映権料は4年契約で90億円ほどだったと言われている。その後契約は更新され、最終的には4年で170億円ほどに高騰していたが、まだ何とかできる範疇に収まっていた。

2018年、AFC主催試合に関する放映権の入札が行われた。応札したのは先出のDDMCフォルティスと「ラガルデール・電通・パフォームグループ(DAZNの前身・現親会社」の2者だった。結果、落札したのはDDMCフォルティス。8年20億ドルという巨額の契約はスポーツコンテンツビジネスとして成立するのか?という声もあったほどだ。

実際、AFC主催試合には以下の大会が含まれる。

  • 代表
    • アジアカップ
    • U-23アジアカップ(オリンピック予選兼ねる)
    • U-19チャンピオンシップ(U20ワールドカップ予選兼ねる)
    • U-16チャンピオンシップ(U17ワールドカップ予選兼ねる)
    • ワールドカップアジア予選
  • クラブ
    • AFC チャンピオンズリーグ(AFCランキング1位から14位の国のクラブの対抗戦)
    • AFCカップ(AFCランキング15位から28位の国のクラブの対抗戦

これらの大会を含むセット販売という事になるが、確実に人気のあるコンテンツはワールドカップアジア予選とAFCチャンピオンズリーグの決勝戦くらいのものだ(事実、それ以外の試合・大会はテレビどころか配信すらされていない試合もある)つまり、AFC主催試合については放映権料ビジネスが成立するのは一部だけという見方が大筋だ。

案の定、2022年からの放映権料の提示額は桁違いに高騰した。一説には4年で1,000億円以上が提示されたという話もある。

DDMCフォルティスはFMA(Football Marketing Asia)というブランドを立ち上げ、放映権の販売に乗り出したが、手を上げる国内民放はなかった。2021年3月からアジア2次予選が始まったが、ここまで一括契約できなかったFMAは、放映権のバラ売りを始めた。国内の民放は日本国内で行われる試合のバラ売り放映権を購入した(フジテレビ、日本テレビ、TBS、テレビ朝日)だが、2022年以降のアジア最終予選の試合は1年を切った段階でも放送するテレビ局が無いという異常事態だった。

そんな中、放映権獲得を断念せざるを得なくなった国内民放に代わって手を挙げたのがDAZNだ。DAZNはDDMCフォルティス(FMA)と交渉し、最終予選も含めたAFC主催の14試合全ての独占放映権(DAZNの場合は配信だが)を手にしたのだ。

【地上波放送へ】

テレビ朝日は何とか日本代表の試合を地上波で放送しようとDAZNと交渉を重ね、日本代表のホームでの5試合の放映権を「バラ売り」してもらうことで、何とか地上波放送を実施できることになった。放映権料は1試合につき2~3億円と言われ、DAZNの契約額から見れば極めて「良心的な価格」である。

この「良心的なふるまい」はあまり報道もされなかった。実はDAZNの有力株主の中に電通がいる。電通はその子会社「Global Sports Investment」を通じて、同社の株式を500億円(時価評価額)ほど保有している。つまりDAZNは電通グループにとってパートナーであり、利益を出してもらわなければならない投資先でもある。電通はスポーツコンテンツに多額の投資を行い、その一つがDAZNだったというわけだ。実際、テレビ朝日とDAZNの件を仲介したのは電通だと言われている。

これにて一件落着かと思われたが、最終予選は思わぬ展開となる。代表が早い段階で2連敗し、その後巻き返す事になったが、なんとアウェーのオーストラリア戦に勝利すれば、敵地で本大会出場が決まるという展開になったのだ。

慌てたのは日本サッカー協会である。「自腹を切ってでも」という田嶋会長の発言は、テレビ朝日が契約したのはホームの試合だけであり、アウェーの試合は放送予定が最初からなかったからだ。(時差の都合で早朝や深夜のキックオフが多く、高視聴率が望めないのが理由)

そこで前出の交渉となるわけだが、もやはテレビ局にもサッカー協会にも、DAZNを納得させる条件を出す事はできなかった。

こうして日本がワールドカップに初出場を果たして以来、初の「テレビで見られない本大会決定試合」となったのだ。

【日本サッカー協会がハマった穴】

田嶋会長はFIFAの理事であり、AFCに加盟する日本サッカー協会のトップとしてそれなりに影響力も発言力もある。現に2019年に行われたAFC会長選挙においては、現会長のアリ・サルファ氏(バーレーンサッカー協会会長)を支持したばかりか「AFCはアジアのサッカー発展のためにDDMCフォルティスと大型のパートナーシップ契約を行うなど、未来への投資を積極的に行っています」と巨額の放映権契約を称賛するコメント迄残している。まさかこれが3年後に自らの首を絞めるとは当時の田嶋会長も思っていなかったのだろうが、AFCが放映権料を吊り上げれば、傘下組織の日本代表の試合も高騰するというのは、想像できなかったのだろうか?

【DAZNは被害者】

私はDAZNを擁護する気はないが、今やスポーツコンテンツの放映権料ビジネスは、こうしたネット配信企業抜きでは成立しなくなっているのも事実だ。日本国内においてもJリーグの試合などは視聴率も取れず、そもそも若年層の「テレビ離れ」が指摘されて久しい。有力なスポンサーも配信業界に流れていると言われ、テレビ局に落ちる広告料は減少傾向にある。民放にかつての資金力を期待するほうが無理というものだ。むしろ民放各局がギブアップしたところを救いの手を差し伸べたのがDAZNなのではなかったか?もしもDAZNが手を上げなければ、テレビ朝日に格安で放映権を販売しなければ、オーストラリアでの試合はもとより、サッカー日本代表のアジア最終予選は1試合もテレビで見られなかったことになる。批判を受けたDAZNこそいい面の皮である。無料配信をやらなかった(商売なのだから当たり前だ)ことで、こんなに批判される配信会社というのもないだろう。

【ワールドカップ2022は?】

こうなると2022年11月に開催されるワールドカップ本大会(カタール大会)の放映権が気になるところだが、インターネットテレビ局の「ABEMA TV」が放映権を獲得したことが先日発表された。具体的な金額は不明だが、一説には200億円程度だという。半額をNHKが負担し、AEBMAが残りを支払い、うち何割か(日本代表の予選3試合分)は、ABEMA系列のテレビ朝日が負担する事が決まったという。

ワールドカップ本大会は2002年の日韓大会以来、NHKと民放各局で構成するジャパン・コンソーシアム(JC)が一括して放映権を管理していたが、やはり高騰する放映権料を負担するに際して足並みがそろわず頓挫していた。この時点でABEMAが手を上げなければ、ワールドカップ・カタール大会は、日本で1試合も見られない事になっていた可能性がある。

ABEMA TVにとっては大きなスポーツコンテンツへの投資だが、これが可能になったのは業績好調な「サイバーエージェント社」の力だ。ABEMA株式会社はサイバーエージェント社傘下のグループ企業であり、多彩なスマホアプリやゲームなどで、コロナ禍においても業績を伸ばし続けたサイバーエージェント社の英断があったればこそ、日本のファンはカタール大会の全試合(64試合)を無料視聴することができるのだ。地上波もテレビ朝日、フジテレビで10試合、NHKでは開幕戦・決勝戦を含む21試合を。そして日本代表の予選3試合はこの3局で生中継する事が決まっている。

【放映権料ビジネスのいま】

「放映権バブル」とでも言えばいいのか、スポーツコンテンツの放映権料ビジネスは、その市場規模を拡大する一方だ。日本代表が初めて出場した98ワールドカップフランス大会の放映権料はおよそ5億円だったが、2018年のワールドカップロシア大会では、放映権料が200億円に跳ね上がった。20年間で40倍に膨らんだのだ。英・ミラー紙によれば、サッカー・プレミアリーグの放映権料は2021年、初めて100億ポンド(日本円で1兆6千億円)を超えたと報じた。

22-25年の放映権の入札で、特に海外向けが12億ポンド(約1900億円)から53億ポンド(約8500億円)に高騰したことが主な要因になっているという。サッカーを離れれば、さらに巨大なマネーが動いており、米プロフットボールNFLは年間の放映権が1兆円を超えるというから驚きだ。

【IT企業の躍進とテレビ局の地位低下】

その中で存在感を増しているのが、国境に関係なくメディア事業や配信サービスを展開できるインターネット関連企業だ。プレミアリーグにしても2019年から放送を手掛けてきたDAZNに代わって、動画配信サービス「SPOTV NOW」(以前の「SPOZONE」)を運営する韓国のエクラ・メディア・グループが放映権を獲得したと英メディア・スポーツビジネスが報道。日韓で計2600万ドル(31億2000万円)だった放映権料は、今回5670万ドル(約68億円)まで高騰したと伝えている。また、アップル社はMLBの金曜日2試合の放映権を8500万ドル(約98億円)で取得。「フライデーナイト・ベースボール」としてAppleTV+で配信することを決めるなど、大手企業もスポーツ配信ビジネスに乗り出している。世界的にみるとスポーツ中継における放映権交渉の主役は、もはやテレビではなくインターネット配信業界に移った感がある。

その意味ではDAZNのAFC主催試合放映権獲得はやや不思議な感じがしないでもない。スポーツコンテンツを配信するビジネス市場は成長しているものの、収益力がそれほど高いわけではない。DAZNグループの株式の80%近くを保有する「アクセス・インダストリー社」は英国に本拠地を持つ投資会社であり、本来スポーツとは何の関係もない。世界ではスポーツコンテンツだけでなくチームやリーグそのものを投資会社が保有しているというのは珍しくもなくなった。当たり前だが投資会社は投資して利益を上げ出資者に配分する会社であり、儲かると判断すればどんなものでも買う。逆に言えば儲からないと判断したら即座に切り捨てる。売却したり不採算な部分を切り売りしたりして損切りする。つまり投資会社は数字にはめっぽうシビアなのである。そうでなければ投資家からの信頼は得られない。

実際DAZNはUEFAチャンピオンズリーグ、UEFAヨーロッパリーグのアジア地域での配信から相次いで撤退している。おそらく放映権料は200~350億円ほどと考えられるが、おそらくアジア地域で配信してもペイできないと考えたのだろう。そのDAZNがAFC主催試合の放映権獲得に打って出たのには、Jリーグの試合放映権を持っていることや電通との関連などが考えられるが、次のAFCワールドカップ予選をDAZNが配信する保証はどこにもない。(大幅な値引きでもあれば別だが)

儲からなければ切り捨てる」が、投資のイロハだからだ。くどいようだが投資会社には扱うコンテンツに対する思い入れなどはない。利益が上がるか上がらないかが全てだ。日本代表の試合が日本人にとって「公共財」と言えるほどの重要な意味を持つなどの論理は、ハナからどうでもいいことだ。この議論のすれ違いが如実に表れたのが、今回の騒動だとも言える。
【放映権料が上がるとどうなる?】
だが、放映権料の高騰は悪い事ばかりではない。収入が増えれば業界は活性化する。例えばプレミアリーグでは、優勝チームに1億7600万ポンド(約280億円)、最下位のチームでも1億ポンド(約160億円)が分配される。JリーグもDAZNの進出により、理念強化配分金として実質的な賞金が大幅に増加。元スペイン代表・イニエスタら大物選手の来日が実現したのはその好例だ。
IT企業がスポーツや配信事業に投資するのも、顧客に受け入れられ、ビジネスとして魅力あるものになったからこそだ。

 

しかしスポーツコンテンツの「完全有料化」には、反対の声も多い。地上波の利点は「テレビさえあれば誰でも見られる」ことにある。放送に関する費用やテレビ局の利益は、全てスポンサーが負担しているからだ。ネット配信にもスポンサーは付くが、経費の大部分は視聴者が負担する「Pay per view」で賄われる。当然ながら配信会社は魅力的なコンテンツ獲得に投資し、配信サービスへの加入者増を目指す。また地上波放送と違い、世界中に加入者を抱えることが可能な配信ビジネスは、テレビとはマーケティングが根本的に異なる。

日本サッカー協会の田嶋会長は「子どもが見られないというのは、サッカーの人気低迷につながる可能性がある」と危機感を募らせている。

「サッカーの普及・大衆化」「底辺の拡大」は協会のみならずサッカーというスポーツ発展に必要不可欠だ。

ただ、昭和の時代に「巨人・大鵬・卵焼き」などと言われ、不動の大衆コンテンツとして位置づけられていたプロ野球も、全国ネットの地上波放送はほぼ消滅(オールスターと日本シリーズは全国放送している)し、いまやネット配信とローカル放送で野球好きが楽しむという構図になっている。日本のプロ野球チームのマーケティングは、ある意味Jリーグより「地域密着型」だったりする。逆に言えば「地域に根付く」ことで生き残りを果たしたのだ。「テレビを囲んで一家団欒」という光景は、既に過去のもの。スマートフォンやタブレット端末、はたまたスマートTVなどで思い思いに趣味の動画を見たり、配信サービスを利用したりといった形が浸透し、配信でのスポーツ観戦への抵抗感は、ここ数年でかなり薄くなっているといえる。

【変革を迫られるメディア】

同時にこの変化は、メディアの多様化という言葉だけでは片づけられない変革を意味している。

MMD研究所が2021年7月12日から8月5日にかけて実施した「動画視聴に関する利用実態調査」によると、1日のうちテレビ(地上波・BS・CS)を視聴する人の割合は50代で93.2%、60代で94.8%と大半を占めるのに対し、20代は85.6%、10代になると76.9%と、年代が下がるにつれてテレビ視聴者の割合が減っている。また、動画配信サービスについては「利用したことがある」と回答した人の割合が全体の61.2%となり、そのうち62.3%が「月額料金を支払って利用している」と回答している。

また、株式会社CARTA COMMUNICATIONSが2021年9月10日から9月12日に実施した「国内動画配信サービス視聴動向および広告評価に関する調査」によると、メディア利用率で最も割合が高かったのはインターネットの91.0%で、テレビ87.3%、動画配信サービス81.0%が続く結果となった。

これらの調査結果から見えるのは、動画配信サービスはテレビに匹敵するメディアへ成長を遂げているということだ。「DAZN」や「ABEMA」のようにインターネット回線を通じてコンテンツを配信するサービスを「オーバー・ザ・トップ」(OTT)と呼ぶが、インターネット環境があればパソコンやスマートフォン、タブレットなどさまざまなデバイスで視聴できる利便性もあり、近年、国内で急速に普及している。

相対的にその地位を下げているのがテレビ局である。かつてメディアの王様だったテレビは、グローバル化の波に完全に乗り遅れている。いとも簡単に国境を越え、SNSで簡単に世界に宣伝でき、世界中に顧客を獲得できるネット配信に比べて、テレビはいかにも「重い」業界だ。

テレビ放送事業というのは実は「施設産業」であり、法的な制約も多い。放送法という規制のおかげで、新規参入を事実上阻んでいる業界でもあるが、新規参入が無いという事は、新陳代謝が起こりにくいという事でもある。その国の政府が免許を管理する許認可事業でもあるテレビ放送では、もはや今の時代についていけないのではないか?何より資金力の低下は明らかで、高騰する放映権料ビジネスへの単独参戦は、事実上不可能になっている。

何より「いつでも好きな時間に見られる」というオンデマンド配信は、ライフスタイルが多様化する現代にマッチするのだろう。スポーツコンテンツ以外でもドラマやバラエティーなど、本放送よりもオンデマンドのほうで人気が高いコンテンツも多い。

コアなファンにとって、有料であることは大きな壁にはならず、逆に時間や場所を問わず豊富なコンテンツを楽しめるサービスとして歓迎する向きも多い。一方のライト層は、動画サイトにアップされる5分程度の「まとめ映像」やスポーツニュースのハイライトで十分。それが忙しい現代人の本音といえるかもしれない。

 

今回のワールドカップ予選の“放映権問題”は、日本のスポーツ中継がいまだかつてない転換期にあることを示している。レンタルDVDがNetflixやAmazon Primeなどネット配信サービスへと急速に置き換わっているように、スポーツの世界でも“主役”の担い手は確実に変わろうとしている。

(この項終わり)