薔薇の香り~君の心に触れたくて~第3章・復讐の香り(11) | Someday, Somewhere

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ジェジュンは、胸の上に置かれていたユチョンの手を、ユチョンが目を覚まさないように気を付けながら

ゆっくりとどかしてベッドから抜け出した。


そして、リビングに行き、コーヒーメーカーをセットすると、カーテンを勢いよく開けた。

まばゆい日差しが差し込んできて、寝不足の所為か一瞬クラッと体がゆれて、ジェジュンはカーテンに手を伸ばし握り締めた。


―ユチョンの所為だ。ユチョンがおかしなことを言うから・・・。どうしろって言うんだよ。

  昨日までの親友に恋心なんてそんな簡単に抱ける訳ないだろう。

  好きでも好きのタイプが違うんだから。―


ジェジュンは溜息をつき、窓ガラスを開けた。

胸元に忍び込んだ日差しの割には思いのほか冷たい空気に体を震わせ、ローブの胸元を掻き合わせた。人通りもまばらな街を見ていると、突然背後から腰に緩く手を回され引き寄せられた。


ジェジュンは背中に仄かな温もりを感じながら、「起きたんだ。」と呟いた。

ユチョンはジェジュンの肩に顎を乗せ、スリスリと押し付けながら、「冷たいんだから・・・。」と零す。


「・・・だってよく眠っていたじゃないか。朝が弱いくせに無理するなよ。」

「それとこれは別だよ。」

ジェジュンには何が、どうそれとこれが別なのかよくわからない。


「目が覚めたらいないんだもの、・・・寂しいよ。」

ユチョンは拗ねた口調で言い、ジェジュンの肩に歯を立てた。


「食うなよ。」

「だっておいしそうだもの・・・。」

ユチョンは再び歯を立てた。ジェジュンは暫くユチョンの好きなようにさせていた。


「ねえ?ひょっとして昨日の夜に、俺が話したことで悩んだりしている?」

「悩まないって言ったら嘘になる。今までだって、俺達の関係は上手くいっていたのに、どうして今のままではいけないんだ。」


「俺はジェジュンのことをもっともっと深く知りたいんだ。一つに同化してしまうくらいに・・・。」

ユチョンは腰に回した腕に力を込め、耳朶を軽く噛んだ。

「それに親友だったらこんなことできないだろう。俺は、ジェジュンの全部を独り占めしたいんだ。」


ユチョンは、ジェジュンの頬に掌を当て、自分の方に向かせるとジェジュンの唇を覆った。

不意打ちを食らったジェジュンは、目を開けたまま体を固くした。

その時、背後でコーヒーメーカーのお湯がなくなったことを告げるボゴボゴと言う音がして、ジェジュンは

ユチョンの胸を両手で押し戻した。


「俺はユチョンの恋人になるなんて言っていないよ。」

「今・・・わね。・・・・でもきっとそうなるから・・・。」

ジェジュンは無邪気に笑うユチョンを見つめ、その自信がどこから来るのだろうと頭を傾ける。


「週末は暇?」

「予定が入っている。」

「・・・そうか。デートに誘おうと思ったのに・・・。」

「俺を誘わなくても、数多い女友達の中からよりどりみどりだろう。」

「酷いなあ~。俺を遊び人のように言わないでくれる?」

「だってそうじゃん。遊び人は遊び人らしくしていろよ。」

ジェジュンはユチョンの鼻をかなり強く摘まみ、痛さに顔を歪めるユチョンから離れた。




ジェジュンにまとわりついていたユチョンも、会社に出勤すれば嘘の様にジェジュンと一定の距離を保っている。ジェジュンは、ユチョンの変わり身の早さに、こうじゃないとタラシにはなれないのだろうと妙に

納得していた。


「ジェジュン」

ジェジュンが呼び声のした方を振り向くと、チャンミンが駆け足で向かってきた。


「ジェジュン、おはようございます。」

「おはよう。・・・あっ、ごめん。今日はお弁当は用意していないんだ。」

「そんなこといいですよ。じゃあ、今日はいつものお礼をかねて、僕が御馳走します。

 最近、近くにできたレストランに行きましょう。家庭的な料理でおいしいらしいです。」


魅惑的な申し出をジェジュンがどうしようかと考えていると、背後で低音の不機嫌な声が発せられた。

「チャンミン、俺もいるんだけれど・・・。」

「あ~いたんですね、ユチョ二ヒョン。おはようございます。」


「あ~あ~、ジェジュンと素敵な夜をすごして気持ちよく出勤したのに・・・・。

誰かさんのおかげで調子狂うよな。」

「ユチョン、誤解を招くような言い方はするな。」


周囲には他の社員もいるのに・・・と思い、これ以上マズイことを言われては困ると、ジェジュンは

ユチョンを抱き寄せ口元を片手で覆った。

チャンミンは眉毛を少し釣り上げに気味にユチョンを見つめ、ことの真相を探っている。


「ふふふ、チャンミンはあい変わらずわかりやすいな。朝からそんな怖い顔をするなよ。」

「ユチョンッ。」

ユチョンの挑発気味な言い方に、ジェジュンは気が気じゃなくて2人を交互に見やり溜息をつく。

―朝から神経をすり減らさせないで欲しい。―


突然、チャンミンは険しい表情を崩し、ジェジュンに微笑んだ。

「ジェジュン、今日のお昼に、週末の打ち合わせをしましょうね。またメールで連絡しますね。」


チャンミンは、それが女性に向けられたものなら恋に落ちてもおかしくないであろう、とびっきりの笑顔をジジェジュンに見せて立ち去って行った。


「そういうことなんだあ~。アイツもああいう笑顔ができるんだ~。」

「何?」

「週末の相手はチャンミンだったんだ。・・・アイツも意外に行動力があるじゃない。

 こういうことは、チャンミンはもっと疎いと思っていたのに・・・ふ~ん。」


腕組みしたユチョンは、遠ざかって行くチャンミンの背中を見つめ呟いた。


―勝手な誤解はするな。これは俺からしかけていることだから、邪魔するな。-

ジェジュンはユチョンにそう言えたら簡単なのだが、計画を知られてはいけない。


「やる気が出てきた。俺も負けないから・・・」

「そんなやる気は無駄だよ。」


ジェジュンは、暫くユチョンの思いを無視しようと決めていた。

そうしているうちに、きっと飽きっぽいと言うか、惚れっぽいユチョンのことだから、新たな恋の対象を

見つけるだろうと考えていた。

しかし、チャンミンの存在はユチョンの競争心を煽ったようで、ユチョンの妬けに力強い瞳の輝きがジェジュンの悩みを一層大きくした。