『公共事業関係予算について(その2)』 | まいたち昇冶オフィシャルブログ Powered by Ameba

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『まいたち昇治の活動報告』 第12回

 前回は、日本の公共事業が国際的にみて10年ほど前までは高い水準であったのが、現在では同水準か、むしろ低い水準にあることを紹介しました。今後の公共事業については、増額すべきかどうか、あるいは総額を如何に確保するかなど、さらに議論を深める必要がありますが、安倍政権の下ではじまった国土強靭化の取組は、公共事業のあり方について新しい視点から見直しを求めるものであり、大変重要な取組といえます。

今回は、(1)国土強靭化が必要な背景、(2)インフラの老朽化の現状と対策、そして(3)長年の公共事業削減による地方の衰退について説明したいと思います。

● 国土強靭化が必要な背景

 昨秋の臨時国会で「防災・減災等に資する国土強靭化基本法(略称、国土強靭化基本法)」が成立しました。現在、内閣の国土強靭化推進本部のもとで、脆弱性評価に基づいた「国土強靭化基本計画」の策定作業が進められています。また、都道府県や市町村は、国の基本計画と調和した「地域計画」をつくることとされています。今年は、いわば『国土強靭化元年』といえるでしょう。

国土強靭化とは聞き慣れない言葉ですが、「かけがえのない国民の生命と財産を守り、日本を強くしなやかな国にする」ことです。そのために防災・減災対策を万全にし、迅速な復旧・復興を行うことができるようにする必要があります。
この国土強靱化基本法成立の背景の一つとして、以下のような巨大地震に関する歴史的事実の指摘があります。

・過去2,000年間に東日本大震災級(マグニチュード8以上)の大地震が4回発生。(貞観地震、慶長地震、明治三陸地震、昭和三陸地震)
・4例中すべて10年以内に連動し、首都直下地震が発生。
・南海トラフ地震は4例中3例で連動し、6~18年後に発生。

 要するに、東日本で巨大地震が起こると、10年以内、長くても18年のうちに、首都圏や西日本で巨大地震が発生する可能性が高いと指摘されています。
こうした指摘に加え、2020年の東京オリンピック・パラリンピックの開催やいまだ多くある高速道路等のミッシングリンクの存在等を総合的に考えると、危機意識を一層強くもって防災・減災対策を万全なものにしていくことが喫緊の政策課題となっています。

● インフラの老朽化の現状と対策

 もっとも、歴史的事実の指摘だけが国土強靭化に踏み出す背景ではありません。過去の経験から、事前の予防対策を図ることで被害を大きく軽減できうることが分かってきました。ある豪雨災害の事例にかかる国土交通省の試算では、事前の予防対策への投資が、その7~11倍の被害を軽減する効果があるとされています。つまり、甚大な被害が想定されるものの、計画的に事前防災を推進すれば、政策次第で被害をより小さく抑えることができる、ということです。
 このように考えると、2011年の東日本大震災から10年後の2020年までに、つまり、東京オリンピックまで、首都直下地震発生の可能性が高い時期までに、インフラの老朽化対策はできるかぎり前倒しして進める必要があると思います。

 そこで、インフラの老朽化の現状とその費用推計、およびインフラ長寿命化計画の概要について説明します。ちなみに、インフラとは英語のインフラストラクチャー(社会基盤の意、infrastructure)の略称で、道路、橋、トンネル、港湾、空港、上下水道、治山治水、公共賃貸住宅、都市公園、海岸などの総称として使われます。社会インフラ、あるいは社会資本とも呼ばれます。

 前回、日本の公共事業の推移を説明しましたが、多くの社会インフラが1960年代の高度経済成長期に整備されました。それらが建設後50年以上経過して、順次更新期を迎えています。コンクリートといえども耐用年数が過ぎれば、いつ崩れるか分からないのです。これは、災害の有無に関わらない問題であり、ある日突然起こりうることで、とても恐ろしいことだと思いませんか。

 国土交通省の資料によると、建設後50年以上を経過する社会インフラの割合は、例えば、道路橋梁(橋長2m以上)、トンネル、港湾岸壁(水深-4.5m以深)についてみると、平成23年度末時点で各々約16%、約18%、約7%だったのが、10年後は各々約40%、約31%、約29%、そして、20年後の平成43年度末には各々約65%、約47%、約56%へと急速に上昇します。

 その更新費用はどのくらいの金額になるでしょうか。昨年の平成25年12月に発表された社会資本整備審議会・交通政策審議会の答申『今後の社会資本の維持管理・更新のあり方について』に国土交通省の将来推計が示されています。それによると、H25年度の維持管理・更新費は約3.6兆円で、それが10年後は約4.3~5.1兆円、20年後は約4.6~5.5兆円程度になるものと推定されています。なお、この試算の対象範囲は10分野(道路、治水、下水道、港湾、公営住宅、公園、海岸、空港、航路標識、官庁施設)に限られていることに留意する必要があります。社会資本には、10分野以外にも高速道路、鉄道施設、上水道、学校施設などもありますが、今回の推計の対象範囲には含まれていません。

 将来推計を考察すると、今なおミッシングリンクが多数存在し、さらには災害時のダブルネットワークの構築等、多くの重要な新規事業が必要とされる中、現在の公共事業関係経費の約6兆円の水準では不十分ということが分かります。こうした新規事業の費用を捻出していくためにも、インフラの長寿命化の取組も欠かせません。

 インフラの長寿命化を図るということは、耐用年数が経過する以前に、適切な点検を実施し、個別施設ごとに適切なタイミングで補修・補強などの対策を実施することです。これを着実に実行することにより、施設の長寿命化と中長期的な維持管理・更新コストの圧縮・効率化が見込めます。
一方、これはこれとして、必要となる新規事業は投資総額を増額してでも行うべきとの発想もあります。現在の公共事業費の水準のままでは、維持管理・更新コストが今後増えていく中で、今でさえ十分とはいえない新規事業の量をさらに抑制しなければならないからです。H13年度までの数年間、公共事業費は当初予算で9兆円台、補正も加えると11~14兆円台で推移していました。それがここ5年間は、当初予算が6兆円以下で推移していたことも忘れてはなりません。

● 公共事業削減による地方への影響

 公共事業の削減は、地方の主要産業である建築・建設業を縮小させ、深刻な影響を与えています。建築・建設業が地域社会の安全・安心にどれだけ貢献しているかは、平常時にはなかなか実感できませんが、本年2月の豪雪をはじめ、災害が発生するたびに、その重要性が指摘されています。ひとたび災害が発生した場合、現場での迅速な応急対応が必要となりますが、これを担うのは主に地元の建設業者です。この建設業者が、長引く公共事業の削減の影響により、人も機材も十分に確保できない状況が生じています。応急対応のみならず、復旧・復興も早期に進めなければなりません。東日本大震災からの復旧・復興の遅れは、様々な要因があると思いますが、地元の建設業者の衰退も大きな要因の一つではないかと思っています。

 さらに、近年は、日本各地で記録的豪雨や豪雪等、全国いつどこで起こるか分からない大規模な災害が増えています。地方の建設業者は、2000年代の公共事業の長期低落過程で、中高年の熟練作業員だけでなく、自前の建設機械・資材等も必要最小限のレベルまでスリム化し、さらには新採用の抑制等、徹底した改善を行ってきました。こうした中で、先ほどのインフラの老朽化の現状と対策等も考慮すると、これ以上公共事業を削減し、地方の安全・安心、活力を低下させてはならないと切に思います。

 2000年代の地方の就業構造は、大雑把にいうと製造業と建設業で雇用が減少し、医療・介護で雇用が増加しました。また、失業者の中心は中高年の男性で、医療・介護の求人の多くは女性でした。なお、年間平均給与は、年齢階層の違いもあるかと思いますが、医療・介護の方が製造業や建設業よりも100万円以上低い状況です。地方の経済活動が低迷し、雇用情勢が改善しないのは、こうした雇用のミスマッチと産業構造の変化にともなう所得の低下があったことも一因と考えられます。
そして現状は、大都市圏で景気が回復してきても、公共事業予算の中長期的な見込みが示されず、安心感が持てないため、地方の建設業者は、正社員の採用拡大や新たな設備投資になかなか踏み込めないのが実情です。

 これまでの、公共事業予算の山あり谷ありの推移、10年にもわたる公共事業の削減による地方の衰退、災害時の対応能力の低下等を振り返ると、公共事業というものは、安易に増減させるものではないと思います。不景気の時は、即効性の観点から一定規模の増額を図ることが必要ですが、平時には、中長期的な視野に立って、維持管理・老朽化対策、真に必要な新規事業の実施、建設業の人材・機材の確保等の観点から、事業費を平準化して計画的に進めることが重要と考えます。このことは、地域と住民の安全・安心に加え、地方経済の活性化にもつながると思います。地方に活力が戻り、地方経済が成長すれば、日本全体もより活性化し、日本経済も持続的な成長が実現します。公共事業増額の財源確保については、例えば1兆円程度であれば、バランスシート運営の観点から、見合いで資産も残りますし、次世代に渡り恩恵があることから、建設国債の増額でよいと思いますが、資産の流動化や行革等、歳入・歳出両面からの見直しも適切に行いたいと思います。

 次回は、地方の景気回復を確実なものとし、地方に活力を取り戻していくためには、どのように公共事業を実施すればよいか等について考えてみたいと思います。