『公共事業関係予算について(その1)』 | まいたち昇冶オフィシャルブログ Powered by Ameba

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『まいたち昇治の活動報告』 第11回

 前回まで3週連続で社会保障関係の予算等について説明してきましたが、その中で、社会保障経費の増大のために、その他の経費は削減して何とかやりくりしてきた現状を説明しました。その他の経費のうち、地方の再生・活性化にとって欠かせない予算の一つが公共事業関係予算です。今回は、これについて取り上げます。

● 公共事業の規模は政策論議の争点

 公共事業とは、国や地方自治体などが行う道路や橋、鉄道、港湾、上下水道、住宅、教育施設、公園などの社会資本の整備にかかる建設事業のことで、堤防、ダムなどの治山治水施設の建設、自然災害の復旧工事なども含みます。

 平成24年12月の自民党・公明党による政権奪還後、政府・与党は、京都大学大学院の藤井聡教授(公共政策論)を内閣官房参与として迎え、防災・減災等の視点から、理論的に公共事業を拡充する方向へ舵を切り直そうとしていますが、未だ一部のマスコミや有識者からは、過去のバラマキ政治の復活だと批判しています。

 確かに、これまで公務員として、そして地方財政を中心に携わってきた私の感想としては、バブル崩壊後からH13年からの小泉構造改革が始まるまでの間は、そのような傾向が見られたことも否定できないと思います。しかし、現状は、昔とは状況が異なり、もはや減らせるような状況ではないことについて、理論的にきちんと説明しながら理解を得ていく必要があると考えています。

 公共事業はしばしば政策論議の争点とされ、「無駄な公共事業」、「コンクリートから人へ」など刺激的な決まり文句が多用され、未だ公共事業悪玉論は消えず、現状を直視しないで雰囲気で議論されることが多い今日、日本の公共事業は多いのか、少ないのか、まずはその実情について考察してみたいと思います。

なお、その前に、来年度の公共事業予算の概略に触れておきます。

● 平成26年度の公共事業費は実質約2%増の6兆円弱

 H26年度当初予算の公共事業費は総額約6兆円(5兆9,685億円)で、前年度当初予算比12.9%増となりました。これは社会資本整備特別会計を廃止し一般会計に統合(約0.6兆円増加)したことが主な要因で、この影響を除くと、実質1.9%の増加です。もっとも、H25年度補正予算で計上した約1兆円を含めて考えると、かなりの増額となっています。景気回復に即効性があると言われる公共事業をきちんと増額することで、「景気回復を全国津々浦々に届けて、力強い成長につなげたい」との安倍総理の意気込みが伝わってきます。

H26年度予算では、以下の分野に重点が置かれています。
・インフラ老朽化対策の加速
・首都直下・南海トラフ巨大地震等に備えた事前防災対策の強化
・競争力強化のための物流ネットワーク整備の加速
・2020年東京五輪を契機とした交通ネットワークの整備

● 増額基調から減額基調へと振れ幅が大きかった日本の公共事業

 さて、公共事業の規模の問題に戻りましょう。公共事業予算の規模の推移について国際比較してみる場合、各年度の予算額ではなく、政府統計の一般政府総固定資本形成の対GDP比率(以下では公共事業の対GDP比率という)を使うのが一般的です。ここで一般政府とは、中央政府と地方政府を指します。
 日本の公共事業の対GDP比率を1960年から50余年間とると、ふたこぶのラクダの背中のような上がり下がりがみられます。当時の経済情勢等を加味すると、次のような経緯をたどります。

【第1次過大期】
・1960年代は4%台で推移していましたが、70年代に入ると5%台へ上昇。1970年代末頃には6%を突破。この時期は、高度経済成長期から日本列島改造論ブーム、石油危機による狂乱物価の時期にあたります。

・1980年代前半は6%弱から85年頃まで比率の低下がみられ、80年代後半は4%台に低下します。

【第2次過大期】
・80年代後半の4%台から、1990年代前半、1991年から93年にかけては、一気に6%台へ上昇。1990年の日米構造協議で米国は、日本の内需拡大とそのための公共事業の拡大を迫ったのです。その結果、対米公約というかたちで、総額430兆円の公共投資基本計画(1991年度から10年間)が策定されました。

・1990年代は概ね6%前後の高水準が続きます。バブル経済崩壊後の深刻な景気低迷を幾度も大型の景気対策、つまり公共事業中心の対策で打開しようとしました。しかしながら、金融政策や成長戦略等を一体的かつ有効に実施できなかったせいか、景気はなかなか回復しなかったほか、大型投資も続き、財政も悪化しました。

【過小期】
・2000年代は公共事業の削減が一貫して続き、2008年には3.0%台まで低下。この値は、1960年以降の最低水準です。小泉政権の構造改革、社会保障費の増大等の中で、公共事業費の対前年度比3%削減のシーリングが継続したことが主な原因です。

・2009年には、前年秋のリーマンショック対策のための景気対策が自民党の麻生政権の下で打たれ、公共事業の対GDP比率は3.4%まで持ち直しますが、民主党への政権交代が起こり、「コンクリートから人へ」の方針下で、再び低迷します。

・2012年の自民党・公明党による政権奪還後、安倍政権では、「国土強靱化」が新しい視点として加わり、経済対策等も合わせて実施することで、公共事業の総額確保に努めていますが、ほぼ横ばいの状況が続いています。

● 山あり谷ありの公共事業

 このように、日本の公共事業は、対米公約という外圧で増額傾向が続いた時期もあれば、この10年間は、社会保障費の増額や公共事業予算の適正化の観点等から、3%の一律マイナスシーリングというタガを“機械的に”はめられて減少傾向が続くなど、山あり谷ありの過去を経過してきました。特に、減少局面においては、過去の私の財政経験からしても、財政当局から事業部局に対し、限られた財源の中で、とにかく削減したパイの中で優先順位をつけて実行すること、といったような安易な調整があったように思われます。それが“時代の潮流・空気”だったのかもしれません。

 それにしても、公共事業費の対GDP比率の5.0%(2000年)から3.0%(2008年)へと、わずか8年での2%の縮小は異常だったと思います。自民党政権下での緩やかな削減の継続に加え、民主党政権での大幅な削減があり、現状はどうでしょうか。高度経済成長期に建設した公共施設が順次耐用年数を迎え、災害等が発生しなくとも崩壊の危険性がある施設も多く見られるほか、大規模な災害時に迅速に対応したくとも、地域では人や機材が不足して十分に対応できない事態が発生しています。公共事業の意義・必要性や適正水準に係る議論のほか、老朽化対策や地方での適切な人材・機材の確保、地域活性化に係る議論等が十分になされないまま、時が過ぎてしまったように思えてなりません。

 日本は、国土の7割が中山間地であり、自然災害も多く、治山治水や災害復旧のための公共事業も毎年必要で、その前提の上で他国並みに社会基盤の整備をしていくためには、当然、事業の精査はきちんとする必要がありますが、対GDP比率は他国より高くてよいと思われます。そこで、対GDP比率が約50年間考察できる欧米先進国のなかから数値をみると、以下のような状況となっています。

・フランスは70年代以降、3%台で推移し、2005年以降は日本を上回る水準で推移。
・英国は、70年代半ばまでは4~5%で推移し、80年代以降は1~2%で推移したものの、現在は3%近くまで上昇。
・米国は、70年代以降、4~5%で推移し、90年代前半以降は4%を切る水準で推移したものの、2005年以降は日本、フランスを上回る水準で推移。

 このように、日本の公共事業は、国際的に見て、約10年前までは高い水準であったものの、現在は、同じような水準か、むしろ低い水準にあるといえます。

 今後の公共事業については、現在の水準のままでよいか、一層の縮減は可能なのか、できる限り増額に努めていくべきかなど、相当議論する必要があると思いますが、次回は、国土強靱化の視点から、インフラ老朽化対策および公共事業予算削減による地方への影響等について説明したいと思います。