天国への階段 | 記憶の中の宝探し 限りなき時間遡上

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珠玉の思い出を引き出して楽しんじゃおう!

 

 

このエピソードも記憶に
鮮明で、どちらかといえば
ほろ苦かった思い出である。
 
社会人になって間もない頃のこと。
 
学生時代から付き合いのあった
バイク繋がりの浅野という友人が居た。
 
浅野は無類のバイク好きで、
寝ても起きてもバイク漬けの日々を
おくっていた男だ。
 
就職先もバイクの専門店。
 
その専門店は
私がバイクを買った店で、彼はこの店に
以前から入り浸っていた。 
 
私も学生時代からバイクが好きで、
ちょくちょくその店に暇があれば
顔を出していた。
 
そして、私と彼は、
その店で知り合いになったのである。
 
こじんまりとした店で、
店長と店員の2名のみ。
 
そこの店長や店員とは
普段から顔馴染みであった。
 
彼はバイク一筋といったスタンス。 
 
云わば硬派なライダーだ。
 
私のように、
長野までわざわざ
鼻の下を伸ばしバイクで会いに行った女性に
振られたり、
 
憧れていた女子との2人乗りも、
好きでもない女子を仕方なく乗せる
ハメになったなどなど、
私にとってのバイクは、
 
常に女子と接近するための
パーツの一部だと捉えていたが、
浅野という男は、そんな私とは違い、
 
あまり女性には興味がなかったのだと
この時は感じていた。
 
彼の口から女性の
話など出てくることもなく、
 
とにかく、
いつかは1000ccバイクに乗りたいとか、
バイクのレースに出場して
優勝してみたいなどと
自分の夢を私に話していた。 
自転車
 
 
私はバイクより、女性に跨りたい好色な
人間であったが、彼は女性よりバイクに
跨っている方が
幸せであったのだろう。
 
彼とバイクツーリングに何度か行ったが、
いつも銀色の派手なレーシングスーツを
纏い、しかもゼッケンまで刺繍して
それを着ていた。
 
東京と山梨を通じる国道の県境付近の 
大弛峠や、
奥多摩有料道路を走るのが大好きで
彼の運転は特にコーナリングで
凄まじく速かった。
 
私もコーナリングは得意な方であったけど、
後方からの彼のコーナリングスタイルは、
実に格好良くバイクを傾け、
速いスピードで
コーナーを切り抜けていく姿に
感心していた。
 
彼の部屋へ初めて遊びに行った時、
バイク雑誌の量の多さに驚いたことも
覚えている。
 
モーターサイクリストや
オートバイ、モトライダーなど、
それまで読んだ過去モノが
レンガの建造物の如く
部屋の隅っこの壁際にびっしりと
積まれていた。
 
 
洋楽も好きで 音符
 
レッドツェッペリンの天国への階段や
アキレス最後の戦いなどのレコードを
好んでかけていた。
 
バイク乗りは
やっぱりロックだよな〜などと
 
マッシュルームの出来損ないみたいな
眉毛上直前に、揃った前髪を
揺さぶりながら語っていたその顔は
映画、スタートレックに出てた
スポック大佐みたいであった。
 
部屋に居ても
銀のバイクスーツを着ているものだから
その出立ちは、
はっきりいって格好いいとは言えず、

ちょっとダサかった風でもある。
 
年中同じモノ着ているから
夏などは悪臭が漂ってきたりして、
しかも肩のあたりにフケがぱらぱらと
こびり付いてたりした。
 
バイクの扱いを除けば、
少なくとも
私の方が彼よりはナンボも清潔で
イケてると自負していた。
 
 
彼の部屋に行くと、長居してしまい、
いつの間にやら夜になっていて
帰りは日付変更線を
越えることもよくあった。
 
土曜の夜は、深夜番組の
白バイ野郎ジョン&パンチを見てから
帰るのであるが、帰るつもりが
刺激されてしまい、
そのまま彼と走りに出かけることも
しばしば。
 
 
その頃、彼は大型バイクの免許の取得を
目指して
なんと18回も試験場に通い、やっと取得。
 
そして、待望の750ccバイクを買った。
(当時は平均7〜8回で取得できるのが普通)
 
ところが買って僅か1週間余りで、
車と激突して重症を負った。
叫び
 
彼の勤めるバイク店の店長らが
事故現場に行って
応急処置を行ったらしいが、
バイクは大破し、相手側の車も
前面が大きく凹んで酷かったという。
 
彼は事故現場から救急車で病院に運ばれ
一命は取り止めたが、大腿骨骨折および
肋骨も一部折るという
とてつもない重症を負ってしまった。
 
 
一時面会謝絶であったが、
回復を見計らって、私は彼の入院する
病院へ見舞いに行った。
 
エレベーターに乗って
彼の居る病棟で降りた時、入れ違いで
エレベーター前に
女性が待っていた。
 
「なかなか
可憐な女子じゃね〜か〜
ビックリマーク
 
と一瞬ドキッとさせられた。
 
そして彼の病室へ行くと
 
「あ〜ごめんごめん…」
 
などと言いながら
パジャマ姿の彼は、ベット周りを
片付けて、私の座るスペースを作って
くれた。
 
重症を負った割には回復も早く
元気でホッとしたが、
ベットの横にある小さなテーブルには
花が生けられていた。
 
たった今まで、
誰かがお見舞いに訪れていた風であった。
 
男じゃないな ビックリマーク と私は即座に察した。
 
「誰か来てたんだ〜」と
 
私が訊ねると彼は
 
「あ、友達が来てたんだよ〜」
 
「ま、それより心配かけて
すまなかったな〜」
 
などと、話をはぐらかしているのが
見てとれた。
 
私は、エレベーターですれ違った
女子のことがふと目に浮かんだ。
 
でも、その女性のことを
彼に訊くのはやめておいた。
 
彼の居た病院はそれほど大きくなく
入院患者もそれほど多くは無さそうで
あったから
 
多分、あの時、
エレベーターに乗ろうとしていた彼女が
ここへ来ていたに違いない 
ビックリマーク
 
と私は、ほぼほぼ確信した。
 
私の心の臓の脈拍がやや高鳴った。
 
その後、病室でどんな話をしたのか
思い出せない。
 
 
見舞いの帰りに
彼の勤めていたバイク店に寄ったことなどは
記憶にはっきりと残っている。
 
その時、店には店長が居た。
 
店長は気さくな人柄なのでなんでも話せた。
 
そして、病院で私が見た
彼女らしき人物のことなんかにも
触れてみた。
 
店長は
 
「あ、その女性は多分彼女だよ ビックリマーク
 
とさらりと言いのけた。
 
 
 
 
 
 
 
やはり !!
 
いつ頃から付き合っていたのかを訊くと
かなり以前からということで、
 
「そのうち結婚するんじゃないかな〜」
 
と、トドメを刺す言葉に
何故だか動揺してしまった。
 
別に自分の彼女が
彼に取られたわけでもないのに、
あの何かを奪われた的な気持ちは、
なんだったんだろう。
 
友情と嫉妬を秤にかけてみたら
嫉妬に天秤が傾いたのが自分でも
わかった。
 
 
帰路、バイクで風を受けながら
なんで
はてなマーク どうしてだよ はてなマーク
とモヤモヤ、イガイガした
胸のつかえた感覚が続いた。
 
まさか
彼女が居たなんて
一言たりとも言わず、
ただバイクの話ばかりしている
彼のことを私はみくびっていたのだ。
 
その時、彼が私より
遥かに高い場所に位置している気がして
ならなかった。
 
 
 
 
 
 
 
 
 
俺が今、事故って入院したって
お見舞いに来てくれる女なんか
居やしない。
 
ベット横に花なんて
飾ってくれる彼女など居ない 
ビックリマーク
という現実がただ虚しかった。
 
部屋に帰って
 
【天国への階段】
 
を聴いていたら
なんて、悲壮感に溢れた
 
まるで、
自分の気持ちを反映しているみたいな
 
そんな〜
ひたすら翳りに満ちた曲は 
孤独感を増大させていったのであった。
 
それまでは
そんな風には聞こえなかったのに…
 
 
 
 
 
 
 
 
 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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