病院清掃「感染防止清掃後の環境表面は元に戻ってしまうのか?」 | お掃除とメンテナンスのプロ 矢部要のブログ

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病院清掃の話をしていると、時々環境表面が時間経過とともに元に戻ってしまうのではないかと言う話が出ます。その為、環境消毒はあまり意味がないという主張です。これはある意味「イエス」なのですが、正確には「ノー」なのです。この誤解が生まれるのは、感染防止清掃のメカニズムの理解不足にあります。まず、感染防止清掃に使用するのはDisinfectant Cleaner(ディスインフェクタントクリーナー)です。この製品は環境表面上の対象微生物の「完全不活性化」が証明されたものなのです。即ち、Disinfectantと書かれているものは、一般細菌を例にとれば、その微生物が処理後は1匹もいない状態に出来る消毒効果があるという意味なのです。

病院清掃の講習をする際には、微生物の種類と増え方を簡単に説明します。一般細菌、真菌、ウィルスに分けて説明します。一般細菌は状況が良いと15分で1匹が2匹に分裂しますので、その計算で行けば、1匹が5時間で100万匹になってしまいます。油断のならない相手です。こうした状況を良くご存知の方が上記の様な質問をしてくるのです。しかし、感染防止清掃を正確に行おうとした場合はDisinfectantの正確な意味を知っておく必要があります。Disinfectant Cleaner を使用すれば、対象微生物は完全不活性化されます。即ち、環境表面上は存在が0(ゼロ)になりますので、増えようがないのです。少なくとも次の感染者がその場所に触れない限りは・・・。日本で環境消毒をする際にイメージされているのはむしろSanitizer(サニタイザー)なのです。総微生物の数を99.9%削減する能力のあるものを指します。病院清掃をする際には「Disinfectant Cleaner」と「Sanitizer」の違いをハッキリ説明します。対象微生物の感染不活性化が必要だからです。但し、もう一つ忘れてならないのは、対象表面もはっきりしていると言う事です。

Hard Surface (硬質) で Non Porous(非孔性)

な場所です。

こうした場所なので、マイルドな消毒剤でも、対象微生物の完全不活性化が可能なのです。

病院で感染防止清掃が特に重要とされているコンタクトポイントの表を以下に出しておきます。Hard Surface (硬質) で Non Porous(非孔性)になっていますね。

環境消毒と人体や動物に対する消毒(Antiseptic=アンチセプティク)も同時に説明します。環境消毒の場合、対象が上記の様に、「硬質・非孔性」ですので、同じ薬剤・同じ濃度でも、体の様な柔らかく、くぼみもある場所とは効果が異なるからです。

元々、病院の歴史の長い欧米では、19世紀の半ばにナイチンゲールがクリミア戦争の従軍病院内で化膿性疾患の致死率を50%から2%あまりに激減した(吉川昌之介 「細菌の逆襲」より)経験もあり、病院内の環境消毒の重要性は議論の余地の無い物になっています。また、環境消毒剤の研究も非常に盛んで、現在の安全で効果の高い製品開発に繋がっているのです。前回高い技術の習得が必要である事を強調したのは、こうしたエビデンスのある製品を正しく使う事こそが、メンテナンス技術を向上させる元になり、病院環境の向上にも役に立つのだと確信しているからなのです。