病院清掃② 洗剤を使用せよ
病院清掃で先ず言える事は
① 汚れがあったらダメ
② 水拭きはダメ
の2点です。
病院内に汚れがあれば、そこは微生物の巣窟になってしまいますので、必ず除去する必要があります。そして、前回水拭きは日和見感染を引き起こす常在菌を広げてしまう可能性がある事から、良くないと書きました。手洗い(水洗い)を例にとっても、水拭きでは綺麗にならない事も述べています。病院では洗剤拭きが手洗いに石鹸を使用するのと同様に基本になるのです。病院では医療機関用に特化した、ノンリンス(水拭き不要)で使用できる便利な洗剤がありますので、そうした物を使う必要があります。そうでないものを使用すると、手間が掛ったり、効果が上がらなかったりするからです。
そうした意味で私の実施する病院清掃の講習でも最初に行うのが、「洗剤の基礎知識」です。残念な事に我が日本では洗剤使用についての基礎的な知識を教える機関や資料がないため、洗剤使用に当たって、誤解を生んだり、大胆な洗剤使用に踏み切れない方が多く存在するのです。洗剤は種類も多く、希釈倍率や用途も様々ですので、見様見真似が効かないのです。洗剤を扱うには基礎的な事を覚えてしまった方が、応用が利き、使い方が上手くなるのです。
洗剤使用の基礎知識は弊社の小冊子「日常洗剤の使い方」(無料)もありますし、説明動画(30分)もありますので、興味のある方はそちらを参考にして下さい。
基礎的には以下の項目を最低でも抑えましょう。
① 洗剤とは
② 洗剤の役割
③ 洗剤の強さ
④ 酸を使うかアルカリを使うか
⑤ ベストポイント「臨界ミセル濃度」を理解せよ
⑥ リンスとノンリンス
⑦ ファインミストの除去
以上です。その他にも勿論あるのですが、ここが最低限です。
① 洗剤とは ですが、洗剤の主成分は界面活性剤と言います。マッチ棒の様な形をしており、水と親和性の良い親水基と油と親和性の良い親油基を持っています。左写真の様に水と油は仲が良くないので、水の中に油を入れると、混ざる事はありません。境界があります。この中に洗剤を入れると片方の手が水、片方の手が油を掴み、水の中に油の分子を溶け込ませます。右写真がその写真で、境界が無くなっています。「境」界面が活性化していますね。そこで界面活性剤と言うのです。それに助剤や添加剤を加えたものが洗剤です。
私達の身の回りの汚れの8割は水溶性の汚れと言われています。残りの殆どは非水溶性(殆どが親油性)です。水拭きでは80%しか取れない事になりますが、洗剤を使えば100%落とす事出来る事になります(厳密には以下の無機物の汚れも取れての100%ですが)。
② 洗剤の役割 洗剤の役割の1つ目が上記の油汚れ(有機物質)を取る事です。もう一つが表面張力を落とす事です。これで分かり易いのが写真の手に泥を一杯着け、水洗いをする実験です。手に着いた泥は水では中々落ちないのですが(スッキリしません)、石鹸を付けるとあっと言う間に綺麗になります。ここで問題なのは泥は有機物(即ち油)ではありませんね。泥は無機物になるのです。無機物の汚れがどうして落ちるのかと言うと、表面張力を落とす役割になります。泥は虫眼鏡で見れば細かな粒子がくっ付いたもので、割れ目が一杯あるのですが、水は表面張力が強いので、中に入る事が出来ません。しかし、洗剤のもう一つの役割が表面張力を落とす(サラサラになる)ことですので、割れ目の中にどんどん入り込み、泥の粒子を洗い流すのです。一つ目の役割で有機物の汚れを、二つ目の役割で無機物の汚れも、同時に落とす事が出来る。これが洗剤の役割です。
さて、①と②で相当な紙面を使ってしまいました。この調子ではこの項が終わりそうもないので以下は簡単に述べていきます。詳しくは弊社「洗剤使用の基礎知識」や動画をご参照ください。
③ 洗剤の強さ はpH値を覚える必要があります。洗剤の強さはpHに連動していますので、覚える必要があるのです。pH値は1単位10倍で区切っています。従って、pH11は水で10倍に薄めるとpH10になります。もう10倍即ち10×10の100倍薄める(2単位)でpH9になるのです。端数、例えば50倍の様な場合は本来は乗数ですが、現場で使用する際には分数で考えてしまいます。pH11を50倍ですと最初の10倍でpH10になりますね。残り5を0.5として引いてしまいます。9.5になりますね(実際の乗数では9.6幾つになるのですが少しの差ですのでこれで良いのです)。そこで約9.5とか9.5程度とすればよいのです。プロ用の洗剤は殆どが薄めて使いますので、この方式で、自分が使っている洗剤の強さが分かります。汚れはpH値に連動していますので、ブラックヒールマークがpH10の洗剤で落ちると覚えておけば、pH11の洗剤であれば、原液でも落ちるし、10倍に薄めても落ちる事が分かる訳です。
④ 酸とアルカリどちらを使うか での判断の仕方ですが、私達の身の回りの殆どのよごれはアルカリで落ちます。酸で落ちる汚れはほんの一部です。少ない方の酸が必要な汚れを覚え、それ以外ではアルカリを使うと覚えてしまえば簡単です。メンテナンスで扱うのは主に建物の内側ですので、そこに限定すると
A.トイレ B.風呂場 C.流し台 D.錆
です。トイレは便器内に着く尿石と水垢がカルシウム(Ca)が主成分で、これがアルカリである事から、酸が必要になるのです。浴室は石鹸とかシャンプーがアルカリで、それが残留するので酸が必要になります。流し台も洗剤(アルカリ)が残留するので酸が有効なのです。錆はFe2O3などが錆になりますが、O3をHCl(塩酸)等を使用するとH二つでO一つ(H2O)、Cl(塩素)も酸素(O)を二つ取ってClO2(二酸化塩素)になります。還元作用を使ってFe2に戻すのです。
トイレ・風呂場・流し・錆 と覚えましょう。それ以外はアルカリで、汚れに応じてアルカリを強くしていけばよいのです。
⑤ ベストポイント臨界ミセル濃度 ですが、稀釈する洗剤の希釈倍率は概ね幅がありますが(1:10~1:100など)殆どの洗剤には臨界ミセル濃度と言うベストな希釈ポイントがあります。そして、この濃度で非常にユニークな性能を発揮するように出来ています。弊社のマルチサーフィスクリーナーと言うアルカリ性万能洗剤では1:50がベストポイントでワックスの光沢を落とさず、通常の万能洗剤並みに汚れを落とすのです。定期清掃で使用すれば、光沢が上がりますし、通常使用では、床の酷い汚れを取っても、そこだけ光沢が落ちてしまうと言う事がないので、プロにとっては非常に便利なのです。洗剤の使用は「正しい所に正しい洗剤、正しい希釈で」が基本なのです。ましてや、病院清掃で使用する感染防止洗剤では希釈率の順守は必須です。これの最も簡単な解決方法は自動希釈器を使う事です。
⑥ リンスとノンリンス 洗剤にはリンス拭き(水拭きして洗剤分を取る事)の洗剤とノンリンスの洗剤がある事をシッカリ意識しましょう。病院清掃で使用する洗剤の殆どのものはノンリンス仕様になっています。拭きっぱなしで良いのです。水拭きをすると却ってその布が汚染源になって常在菌を広げてしまう可能性があるので、最初からノンリンスで使用できるように設計されています。ノンリンスの洗剤はノンリンスで使用する事を徹底しましょう。
⑦ ファインミストの除去 ファインミストとは薄っすらとした細かな汚れを指します。私たちの身の回りには一杯あります。分かり易い例として、グラスを挙げましょう。グラスを水洗いではあまり綺麗にはなりませんが、バーテンダーは洗剤を上手く使い、ピカピカにします。目に見えるかどうかの細かな汚れまでシッカリ取るので、ガラス本来の光沢が戻るのです。これが洗剤使用の利点です。従って、洗剤を使用した際には対象物をピカピカにすべきなのです。こうすれば、美観が向上し、次に汚れるまで時間が稼げますので、作業効率も上がります。アマチュアとも大きな差を付けられるでしょう。洗剤を使う際には「ファインミストの除去」を心がけると、洗剤の使い方が上手くなり、技術が上がります。
以上で簡単な説明は終わりです。
繰り返しになりすが、洗剤使用の基礎知識は弊社の小冊子(無料)や説明動画(30分)を弊社HPからお求めください。