誰かを傷つけることを正しいことだとは思わないが
誰かを憎むことを正しいことだとは思わないが
誰かを裏切ることを正しいことだとは思わないが
誰かを妬むことを正しいことだとは思わないが
そもそもここは正しくない世界なのだから
汚い僕はこのままで生きるべきだと
そんなことを思った
誰かを傷つけることを正しいことだとは思わないが
誰かを憎むことを正しいことだとは思わないが
誰かを裏切ることを正しいことだとは思わないが
誰かを妬むことを正しいことだとは思わないが
そもそもここは正しくない世界なのだから
汚い僕はこのままで生きるべきだと
そんなことを思った
「……ん……うっ……?」
ふと目覚めて見つめた先、
時計の針は深夜二時を示しているが、
どういうわけか、
カーテンの隙間から漏れてくる光は
朝日のような眩しさを持っていた。
しかし、その不可思議な光は、
ただ僕を目覚めさせることを
目的としていたかのようにゆっくりと消えていった。
「……何?」
起き上がり、カーテンを開いてもそこには何もなく、
夢を見ているのではないかと疑う。
異世界へ誘う妖精も、無駄に髪の長い幽霊も出ることはなく、
僕はまた横になろうとしたところで、
枕が湿っていることに気が付いた。
唾液特有の不快な臭いもせず、
まるで失恋し、涙と共に明け暮れたかのようだった。
「……もう何が何だかわかんないよ」
独り言を漏らしつつ、枕を裏向きに変えて、
そのまま眠りについた。
そして、翌日のこと、
学校から帰宅したところ、隣の家には救急車が止まっていた。
その家にはキミ子お婆ちゃんが一人で住んでいて、
僕も幼い頃からお世話になっていた。
嫌な予感がして近付いて行くと、
そこには僕の母がいた。
「お帰り。ちょっと、お母さん病院へ行って来るから」
母は深刻な面持ちでそう告げると、
僕を残して救急車に乗り込んだ。
後から聞いた話では、
母が多く作った煮物を届けに行ったところ、
お婆ちゃんの様子がおかしいことに気付き、
慌てて救急車を呼んだが、
その時には既に息を引き取っていたそうだ。
深夜の光と、僕が流していた涙は、
キミ子お婆ちゃんからの別れの挨拶だったのかもしれない。
僕はそんなことを思っていた。
気が付くと、彼女は私の前にいる。
同僚がいなくなり、
私が一人になった時にだけ彼女は現れる。
何をしてくるわけでは無いため、
私は何事も無かったかのようにパソコンに視線を戻した。
しばらくして、ふと顔を上げると、
やはり彼女はそこにいる。
残業の時はいつもこうだ。
彼女は幽霊だとは思えない、
生きた瞳で
窓の向こうを寂しげに見つめている。
そして、これもおかしな話だが、
私は帰宅する際は必ず「さようなら」と言い残す。
本来、そういう存在には話しかけてはいけないかもしれないが、
何となく日課になってしまった。
しかし、彼女を見る様になってから、
半年程経過したある日のこと、
いつも通り残業を終えたところで不意に停電が起きた。
そして、しばらくして電力が戻ると、
パソコンのワード入力に「さようなら」の文字が記されていた。
その時、霊感も何もない私だったが、
何となく彼女が向こうに行けたのだと思った。
その理由が私にあるのかどうかは分からないが、
しかし、さようならと挨拶してくれたのは嬉しかった。
私は穏やかな気持ちで、パソコンの電源を切ると、
窓の向こう、
見えもしない遠い景色を眺めながら、
「さようなら」と最後の別れの挨拶を返した。