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タヌキの奇形創作宿

ようこそ。
このブログでは、
オリジナル小説(主に怪談)、童話、
詩、二次創作物を自己満足に綴ります。
Youtubeでは、朗読を投稿し始めました。

君は君のために人を殺して責められた


僕は君のために人を殺して誉められた


人は美談が好きだ


事実や虚偽は後回し


綺麗ごとを並べ続けていれば


耳に入った言葉と目に映るものだけで盛り上がる


馬鹿で阿呆でくだらない


そんな人間が好きだ


悪意と嫉妬と気分だけで生きている


そんな人間が好きだ


自分の汚さを個性と題して裏返す


そんな人間が好きだ

大浴場から部屋に戻ってきた私は、


携帯電話に同僚の水田から着信があったことに気が付くと、


時間帯を見計らってかけ直した。


「おい、吉野、大丈夫か?」


水田は、開口一番にそんなことを言った。


電話越しからでもその真剣さが伝わり、


私は酷く嫌な予感がしたが、


平静を装いながら疑問を口にした。


「何が大丈夫なんだ?」


私がそう尋ねると、数秒の間を置いて、


水田は姿が見えないながらも頭を下げているのが


分かるほどの勢いで、謝罪しながらこう答えた。


「すまねぇ。そこの旅館はやばいかもしれない」


「……要領を得ないな。

 もっと簡潔に言ってくれないか?」


「あ、あぁ、そうだな……何というか、

 俺と友人の間で行き違いがあってな。

 俺が旅行に行くのかと思って、

 悪ふざけで……幽霊の出る旅館を勧めやがったらしい。

 んで、今さっきそれを聞いたから急いで連絡したんだ……」


「なるほど。しかし、今のところは……そこまで妙なものはないが?」


「そこまでって、既に何かあったのかよ!?」


「いや、特に幽霊のようなものを見たわけでは無い……

 空気が重く感じたり、その程度のことだ」


「そうか……もしも、あれなら別のところに泊まってくれ。

 もちろん、代金は払うからよ。噂があるとかそういう問題じゃなくて、

 もっと洒落にならない感じみたいなんだ。

 特にお前、結構霊感あるみたいだし」


自分では霊感があると思ったことは無いが、


人からは認定されてしまっているのが現状だ。


単純に自分に見えている人間と、


他人が見えている人間の人数が合わない程度の認識で、


映画のような見るからに恐ろしい姿をしたそれらを


見たことは無いため、どれが幽霊なのかもいまいちわからない。


「廃業していないということは、

 そこまで酷い目に遭うことは無いだろうから

 気にしないでくれ」


私がそう言うと、水田はもう一度謝罪を口にした後、


電話を切った。


それからしばらくテレビを見続け、


気が付けば夕食の時間になった。


夕食はとても豪華な和食で、とても美味しく、


これだけでも来た甲斐があったと満足出来るものだった。


そして、それから時間は過ぎて、


私が自宅から持ってきた小説を読んでいると、


ふと誰かの視線を感じた。


もちろん、部屋には私一人だが、


得体の知れない何かが私を見ている。


錯覚ならばそれで良い。


私は本を閉じて周囲を見回すと、


テレビの影に何かがいることに気が付いた。


よく見ると、両目が通常の倍以上に膨れ上がった女の顔が、


こちらをじっと見つめていた。


それは今までとは異なり、


明らかに出会ってはいけないものだと、


鼓動の速さと鳥肌が伝えていた。


「……っ!」


私は声を出すことも出来ず、ただその女を見つめることしか出来ない。


どれだけ時間が経っただろうか、


不意にその女の顔はテレビの裏へと沈むようにして消えた。


「ふぅ……何なんだ、あれは?」


とにかく、一度ここを出よう。


私は椅子から立ち上がり、


扉へと向かおうとしたところで、


あることに気が付いたが、足を止めることは無かった。


止めてはいけないと、確かに直感した。

「……とりあえず、フロントへ行くか」


身体中から不快な汗が出ていたが、


私はフロントに向かうことにした。


適当な理由を付けて部屋を変えて貰い、


それが駄目なら近くの空いている


ビジネスホテルでも探して貰うつもりだった。


しかし、私がエレベーターのボタンを押そうとしたところで、


私を呼ぶ声がした。


恐る恐る振り向くと、そこには大浴場で出会った須藤さんが立っていた。


「あ、須藤さん……」


酷く焦っている表情を見て何かを察したようで、


須藤さんは私を部屋に招待してくれた。


そして、彼の淹れてくれたコーヒーを飲みながら、


私は部屋であったことを話した。


「なるほど、あなたは霊感をお持ちのようですね。

 先に忠告しておくべきだったかもしれません」


「どういうことですか?」


「ここは元々そういうものが出やすいようでしてね。

 あぁ、全く縁はありませんが、部屋が云々と言う

 よりも、このホテルそのものが霊が多いと、昔か

 らそういう話なんです。ただし、悪さをするようなこ

 とはないという話でしたが……」


「しかし、私が見たあれは、どう考えても……」


あの形相で悪意が無いと言われても信じようがない。


それに……


「あの顔たちは……」


最後、部屋を出る時に気付いてしまったもの。


私の座っていた後ろの壁に張り付いた


数えきれないほどの顔の群れ。


「どうやらあなたはそういう能力が人並み外れている

 ようですね。もしかしたら、普段はいないものも、

 あなたに誘われて集まってきてしまったのかもしれません」


その後、私は須藤さんと相談した結果、


ここから出た方が良いと判断したため、


空いているビジネスホテルを探し、一夜を過ごした。


あのホテルが一体何なのかは分からないが、


今後一人で旅行することは絶対にしないと密かに誓った。

この旅館に着いた時から嫌な予感はしていた。


外観こそ綺麗ではあったが、


空気と言うべきか、雰囲気と言うべきか、


例えようのないものがそこにあるのを感じていた。


受付でチェックインを済ませた私が通されたのは、


二階の一番奥の部屋だった。


中へ入ると、


一瞬ではあったが、


畳の香りとは別の何かが鼻孔をくすぐったが、


館内や食事の説明してくれている仲居には何も言えず、


ただ頷くことしか出来なかった。


「とりあえず……温泉に入るか」


気分が乗らないとはいえ、


せっかく休みを取ってまで旅行に来たのだから、


最低限は楽しまないといけない。


私は切り替える意味で大浴場に向かった。


貯まっていた有休を使っての旅行だったため、


今日は平日の上、まだ午後三時過ぎ。


そのためか、


大浴場は無人で、貸し切り状態だった。


身体を洗った後、ゆっくりと温泉に浸かると、


心身に心地の良い熱が染みわたってゆく。


それからしばらく浸かっていると、


大浴場の扉が開き、誰かが入ってくる音がした。


振り向くと、


五・六十代に見える年配の男性と目が合ったため、


何となく目礼した。


その方も身体を洗い終えたのか、


鼻歌まじりにこちらまでやって来ると、


どういうわけか私の隣に腰を下ろしつつ、


話しかけてきた。


「こんにちは。お兄さんはご旅行ですか?」


正直なところ、このまま静かに浸かっていたかったが、


無愛想にするのも気が引けるため、


笑顔で会話を続けることにした。


「えぇ、有休を取らないといけなかったので、

 思い切って東京から遠出して来ました」


「あぁ、東京からですか。それは随分と長旅でしたね」


「あなたは県内の方ですか?」


「はい、和歌山生まれの和歌山育ちです。

 しかし、この旅館を選ばれるとは珍しい方ですね。

 どなたかのご紹介で?」


「はい、友人が探してきてくれました。

 正確には、友人の友人に旅行が趣味の方がいて、

 その方がおすすめしていたという話で」


「……なるほど」


それっきり彼は押し黙り、しばらくして立ち上がり、


出口に向かった。


その際、


「申し遅れましたが、

 私は須藤義久です。202の部屋なので、

 何か困ったことがったらいつでもお越しください」


と言葉を残して行ったが、


私にはその真意が分からなかった。


しかし、同時に頭から離れなかった。