三番目の地球
同タイトルの個展は、2017年に開催
まだ数百くらいの地球がこの銀河にあった頃のこと。
ある男はボロボロの地図を片手に持ってこう言った。
「私は急いで3番目の地球に行かなければならない」
「3番目の地球にたどり着かなければ、私の夢は叶わず、友人Bは多分死ぬ。病気の妻の余命も幾ばくもない。
そして2番目の地球にたどり着くと温暖化が進み人口が更に減る。そして5番目の地球となると過剰にIT化が進み、動植物が居なくなる。」
男はあれこれと分析しながら、どの地球が良いのか、選択に迫られながらも、
やはり一番良いのが3番目の地球だと感じていた。
草花は生き返り、人々は歓喜の声を上げ、戦いは消え失せ、幸せな世界が拡がっていく、そんなビジョンが見えたからだ。
男は、がむしゃらに3番目の地球の紐を引っ張ると、そのままするすると、引き上げられて行った。
下を見ると今さっきまで滞在していた地球は、大きく地面が揺れ始め、コンクリートには亀裂が入り、馬や牛や象が世界中で暴れだした。
エッフェル塔や、東京タワーは倒れ、山々が噴火し、人々がパニックになっているのが見えた。
男はするすると引き上げられ、
ぐっと歯をくいしばり、目を瞑った。
ガラガラと建物が崩壊している音が聞こえたが男は更に強く目を瞑った。銃声やら悲鳴やらが聞こえた気がしたが、
しばらくすると辺りは静まりかえっていた。
恐る恐る目を開けると、
男はある惑星にたどり着いていた。
横には彼の妻と飼い猫のシロが微笑んでいた。
太陽は真っ白に輝き、緑は青々としていた。
たわわに実る蜜柑をもぎ取ると、その拍子に蜜柑が地面に転がった。
それを見た妻がクスッと笑った。
蜜柑はそのまま転がっていってしまった。
葉に光が反射するのを手で防ぎ、その眩しさは尋常ではないと感じた。
この真っ白に輝く太陽をどこかで見たことがある、
そう感じたが思い出せなかった。
男は遠くに見えるスカイツリーを見上げながら、なんにも証明するすべは無かったが、
ここは、間違いなく3番目の地球に違いないと思った。
飼い猫のシロとじゃれ合う妻の美しさを見て、男はそう感じたのだ。
眩しい真っ白な太陽のひかりを浴びながら、男は妻の手を何時間も優しく握りしめていた。
完