人生には、たったひとりで決めて旅立たなくてはならない時が何度もあります。
離別、シフトチェンジ、なにかへのチャレンジなど。
歩き出せば、次の扉が開き、新たな世界が待っています。
なんとなくそんなタイミングを感じて、掲載します。
★おばあさんと猫のミミ🐱
2017年に産まれた作品
絵と文
いけかつまいこ
のら猫のミミは強い子でした。
ミミは兄弟と離ればなれになって東京にもらわれましたが、捨てられてしまいました。
ミミはメス猫でしたが、なかなか狩は上手で近所の食べ物やさんから御飯をもらう知恵はみにつけていました。
ミミは捨てられてから3年はたったひとりで生きてきました。
人間の3年はそんなに長くはないけれど猫の3年といったら9年くらいたったのと一緒ですから、それはそれはたいへんな道のりでした。
雨の日はお寺の縁側の下へ、ミミに必ず餌をやるお尚さんもいましたし食べ物に困ることはありませんでした。
ただミミは孤独な猫でした。話し相手がいなかったのです。
「故郷に暮らすお兄さんやお姉さんは幸せかしら?父さん母さんは今元気にしているかしら?」
そんなことを考えると今にも泣きそうでしたが、ミミはグッと涙をこらえて歩き続けました。
ある雨の朝、ミミはひとりのおばあさんに出逢いました。
おばあさんは右足をひきずっていて、重たい荷物を持ちながら大きなお屋敷にはいっていきました。
私が人間だったら荷物を持ってあげたのに。
ミミはそんなことを思いながらじっと屋敷の前でおばあさんを見ていました。
おばあさんはくるひもくるひも買い物にでかけると重たい荷物をどっさり持って屋敷に帰ってきました。
ミミは塀によじ登ってガラス越しに覗いてみました。
そこには病気のおじいさんが横たわっていました。
おばあさんは病気のおじいさんのために果物を調達したり、御飯の材料などを買いにいって看病をしているようでした。
たまの日曜日に息子さん夫婦が様子を見に来るようでしたが、遠いのか、来ない日も多いようです。
ミミが心配そうにおばあさんを見ていると、がらがらと窓があきました。
「これ、チビや。お食べ」とおばあさんが煮干しをくださいました。
「お前さんは毎日そこに座っているんだね。お腹がすいていたのかい?おばあさんはね、お父さんのお世話に忙しくてお前さんが腹をすかせていることに気づかなかったよ。ごめんよ」といって首を優しく撫でてくださいました。
「おばあさん、私は大丈夫なの。おばあさん、私になにかできることはないかしら?
おばあさん、ひとりで大丈夫?大変じゃないの?」と言いたくても、
ミミには「ニャー、ニャー」という声を出すことしかできませんでした。
おばあさんに猫の言葉がハッキリと通じるわけもなく、それでも何度か声をからして、おばあさんに話しかけるように、ニャーといって、ミミは煮干しをむさぼるように食べました。
ミミは毎日毎日おばあさんに会いに行きました。
おばあさんも毎日毎日ミミに煮干しをくださいました。
二人はすっかり心を通わせるようになっていました。
おばあさんもミミが来てくれることが癒しになりましたし、ミミは話し相手ができて嬉かったのです。
二人は人間と猫の違いはありますがまるで本当の友達のようでした。
それからしばらくしておじいさんが死んでしまいました。
幾日もおばあさんは姿を見せなくなりました。外へも一歩も出なくなりました。
ミミは毎日窓をよじ登って覗きましたが部屋は真っ暗でした。
ミミはおばあさんの顔を一目見たかっただけなのですが、それは叶いませんでした。
息子さん夫婦が日曜日にやってきて、おばあさんを連れていってしまいした。
ミミはまたひとりぼっちになりました。
この果てしなく広い宇宙の中で、たったひとりでも友達に出逢えたことに感謝し、ミミはこの街を出ることに決めました。
ミミはおばあさんに逢えたことが嬉しくてしかたがありませんでした。
それだけで充分幸せでした。
宝物のように大事な記憶に思えました。
おばあさんとの想い出を胸に抱きながら、ミミはまたひとりで歩き出しました。
のら猫のミミは強い子でした。
遠くの方に紅梅が咲き誇るのが見えました。あまずっぱい花の香りが骨にまでしみるようでした。
春はもうすぐ側まで来ています。
完
注意 観察意識に戻ると、孤独という概念が無いので難しいですね😅
移行期の文章は、それはそれでなんか、宝物ですね。