星うさ小説 「あなたに歌う、初恋の歌」 | ☆おーるマイティ☆〜セラムンと星うさ小説と子育てな毎日〜

星うさ小説 「あなたに歌う、初恋の歌」

制服姿の少年が、自転車で銀杏並木を駆け抜ける。

自転車の後ろには、茶髪のロングヘアーの女子生徒が少年の方に手を添えて立ち乗りをしている。


爽やかな向かい風に、少女のロングヘアーとプリーツスカートが靡く。




自転車のカゴにの中で、真っ赤な箱がカタカタ揺れる。








「君の初恋の味。ポッキー」




ー11月11日は、大好きな人とポッキーを食べよう。明星ー













美)「はぅああああ〜!!やっぱしカッコイイ!宮城 誠君!」










放課後の教室。
今をときめく若手俳優、宮城 誠の顔写真がプリントされた真っ赤な箱を片手に、口には細長いチョコレート菓子を5本も加えた美奈子が、己の学習机をバンバン叩いて項垂れる。







その左横にある席に座る親友、月野うさぎは美奈子とは対照的に、真っ青な顔をして参考書と睨めっこをしていた。











う)「美奈ちゃん、、今日はクラウン行かないの、、?」



美奈)「そっれがさー!!まこちゃんは園芸部の部室の掃除で行けなくなって、レイちゃんは雄一郎さんが風邪引いたとかで家の手伝いで忙しくて、亜美ちゃんは東大の面接が近いからやめとくとかって!てか何っ!?東大の面接って!?亜美ちゃん程の才女、東大側だって知らないワケないじゃんねー!?それを今更面接っ!?亜美ちゃんに失礼でしょーが!!東大っ!!」



う)「ぃや、、普通でしょ、、、」



美奈)「夜天君もお仕事入って忙しいみたいだしさ、、、大気さんと星野君は知らないけど、、今日来てなかったから仕事なんじゃない?、、あ〜あ。あたし達以外はみんな忙しそうで美奈子つまんない!」



う)「、、ぇ?あたしも忙、、」


美奈)「、、はぁ、、初恋かぁ〜。小学生の頃好きだった佐藤君、ちょっと宮城君に似てたのよねー、、。」












人の話を全く聞いていない親友美奈子に、うさぎはガックシと頭を垂れた。











11月も半ばに差し掛かった季節。
うさぎと美奈子は十番高校の三年生。






隣のクラスの亜美と他校の高校に通うレイは大学進学の準備で忙しく、まことと美奈子は進学組ではない為にのんびりと残りの高校生活を満喫、、と各々の将来への階段を少しずつ登り始めていた少女達。





9月にまさかの「大学に行きたい宣言」をしたうさぎは、亜美から課せられた膨大の量の課題をこなす日々を送っていた。







星野、夜天、大気の三人は学業とアイドルの仕事を並行してこなしており、この時期になるとテスト期間などの重要な期間以外は学校に来る事も少なくなっていた。









ここ最近は亜美がマンツーマンでうさぎを指導していたが、今日は亜美も自らの予定の為に早々に帰宅してしまった。




本当だったらうさぎ以外のメンバーでクラウンでお茶をするのが放課後の日課だが、各々予定が出来てしまった為にまさかの美奈子だけが残ってしまい、こうしてうさぎの隣で漫談に違いワンマンライブを繰り広げている始末である。
















美奈)「うさぎちゃん!そんな参考書と睨めっこした所で、わからないもんは最後までわからないって!ほら!ポッキーでも食べて!脳みそに糖分送って!!」



う)「むぐっ!」











美奈子が強引にうさぎの口にチョコレート菓子を4本ほど突っ込んだ。














口いっぱいに、甘い味が広がる。











すると先程までグルグルしていた思考回路が、ほんの少しだけフワリと緩まるような感じがした。













う)「おいひー!!!やっぱり疲れた頭には甘い物だねぇ!」










やっと見れたうさぎの笑顔に、美奈子もニカッと笑う。









美奈)「でっしょー!!なんたって初恋の味だもんね!」












少しばかり強引だが、これはこれで美奈子なりの優しさなのだ。



慣れない勉強を詰め込みすぎて頭グルグルになっていたうさぎを、美奈子なりに心配していたのだろう。









そんな美奈子らしい優しさが、うさぎは素直に嬉しかった。














夜)「、、、、何騒いでんの?うるさいんだけど」


美奈)「や、夜天君っ!?」












突然、聞き慣れたいかにもダルそうな声が聞こえた。
扉の方に目をやると、痛い同級生を呆れた目で見つめる夜天が立っていた。

彼の両隣には、大気と星野も居た。













う)「せぇやっ!?」



星)「よっ!」










びっくりして目を丸くさせたうさぎに、星野はニッと笑ってみせる。

お互い忙しく、こうやって顔を合わせて会話をするのは一週間ぶりだ。













美奈)「夜天くぅん!あたしに会う為に来てくれ、、っ、、」



夜)「放課後残って予習?偉いじゃん月野。僕らはレポート提出に来たんだ。」











抱き着こうと飛び出した美奈子を上手く避けて、夜天はうさぎの席に近づいて来た。
美奈子は勢いあまってそのままクラスメートの机に真正面から激突してしまう。
教室中に、ドゴォオオォオンっ!!!凄まじい爆音が響く。








美奈)「ぎゃああああああっ!!!」



う)「み、美奈ちゃぁぁん!!!!」



夜)「授業出てないから仕方ないけどさぁ、課題が多くてやんなるよ。結局週一で学校来なくちゃいけないし、、、」



美奈)「う、うざぎちゃん、、、美奈子は最後までや、夜天君を愛していたと、、つ、た、え、、て、、、グフっ!!」



う)「美奈ちゃぁん!!しっかりしてぇ!!」



夜)「でも月野も中々やるじゃん!受験勉強なんて三日坊主になると思ってたけど!」



大)「、、夜天、、、少しは相手をしてあげたらどうですか?」



星)「、、、鬼だな」












騒がしい同級生のやりとりに、夜天はうんざりとした表情を浮かべる。

そしてふと、、、美奈子の机の上に乗っていた真っ赤な箱に目を止めた。










夜)「何コレ?、、ポッキー、、?」


美奈)「夜天君も食べる!?美味しいわよ!」











床に倒れてた美奈子が何事も無かったように華麗に起き上がり復活した。
心底心配していたうさぎはあまりの事にびっくりして目が丸くなってしまう。











夜)「何?死んだんじゃなかったの?」



美奈)「夜天君の愛の力で美奈子は何度だって生き返るわ!」



大)「鼻血出てますよ、、、」











オズオスと大気は自分のハンカチを胸ポケットから取り出し、美奈子へと差し出す。




美奈子はそのハンカチを大気からぶんどると、あろうことか勢い良く鼻をかんで、「ホイっ」と投げるように大気に渡す。









大)「ル、ルル、ルイヴィトンのハンカチが、、っ、、、」


星)「容赦ねーな、、おぃ、、、」


美奈)「みんなの分もあるんだぁ!はい!あげる」


星)「お前も何箱持ってんだょ、、」












美奈子はカバンからチョコレート菓子の入った真っ赤な箱を4箱取り出し、星野、夜天、大気、うさぎにと渡す。










星)「、、、、、、、」










星野はなんのけなしに美奈子から手渡された箱を見つめ、、、そのまま黙り込んでしまった。











う)「、、、?、、せぇや、、?」



美奈)「っと!!いっけない!!もうこんな時間!!今週のボケっとモンスターがっ!!略して「ボケモン」が始まっちゃうっ!!」



夜)「え、、?何見てるの君、、、」



美奈)「じゃっ!!そーゆーワケだから!!バァイ☆」










美奈子は夜天に投げキッスをすると、嵐のように教室から走り去ってしまった。









夜)「はぁ、、。バカ相手にして疲れた、、。大気、星野、僕らもそろそろ、、」


星)「、、、、俺。用事あるからお前ら先に行っててくれよ。」


夜)「え、、、はぁっ!?何言って、、」


星)「、、仕事にはちゃんと間に合うよーにするからさ。じゃ、またな、おだんご!勉強頑張れよ!夜にでも連絡するから!」


う)「へ?、、う、うん、、、」









友達の言葉を無視するように、星野はニッと笑って教室から立ち去ってしまった。





うさぎと大気と夜天の三人は突然の出来事に呆然としてしまう。















う)「、、どうしたんだろ、、、、」


夜)「、、、、、、」










キョトンと首をかしげるうさぎの横で、夜天は美奈子から貰ったチョコレート菓子の入った真っ赤な箱を眺めていた。











夜)「(、、、、初恋の味、、、かぁ、、)」













夕暮れ時の帰り道を、夜天と大気が並んで歩いている。














夜)「懐かしいねー、コレ。子供のころ、丹桂王国で見たのと同じだね。」












美奈子から押し付けられたポッキーの箱を眺めながら夜天は言う。










大)「プリンセスと始めてお会いした日を思い出しますね。」



夜)「そーそー!始めてお城に入って緊張してる僕達に、プリンセスがお菓子くれたんだよね!甘いもの食べたら元気出るよって言ってくれて!昔からお優しかったね、プリンセス!」











夜天は懐かしそうに瞳を輝かせる。











夜)「これと同じチョコレートのお菓子がキラキラ光るグラスに何本か挿してあってさ、宝石箱みたいだった!、、それに比べて、、地球人ってどうして何でもこう安っぽく仕上げちゃうのかな!?こんなチンケな箱に入れるにしたって、もー少しまともなデザインにしたら良いのに、、!!」








プリプリ怒りながらそう言う夜天に、大気はプッと吹き出した。









そして、遠い日を思い出す。















きめ細やかな装飾が付いた陶器の入れ物に入った、色とりどりの金平糖





ピカピカに光ったシルバーのトレイに並んだ、焼きたてのビスケット






王宮の照明に照らされてキラキラ光っていた、本物さながらの花のように咲いていた飴細工






そして、、磨き抜かれて星屑のように光るグラスに刺してあった、、、、チョコレート菓子















母星であるキンモク星は砂糖は高価であった為、その様なお菓子は平民は中々お目にかかることが出来ない。





丹桂王国の皇女、火球の庇護戦士になる為、星野、大気、夜天の三人が親元から離れ王宮に入ったのは5歳の頃だ。





わけもわからず親から離され、嫌な大人達の好奇の目に晒されて内心は不安でいっぱいであった三人に、初めて笑ってくれたのが皇女、火球であった。














ー甘い物を食べたら元気になれるのよー














それまで平民であった三人は、あのように煌びやかな菓子を見るのも初めてで、口に広がった甘い味と火球の優しい笑顔が相まって、、、









幼かった少年達はポロポロと涙を流して泣いた。



















たった5歳で親に売られるような形で王宮に来て




わけもわからず好奇の目に晒されて






先の見えない"これから"に、不安で胸が押しつぶされそうだった幼い少年達











そんな自分たちを気遣って、甘いお菓子を振る舞い、笑ってくれた火球。








後に、あの持て成しは火球自身が言い出した事で、両親である国王夫妻、そして兄皇子の庇護戦士達の反対を押し切り決行したものだったと聞いた。




自分達の主人の優しさに感動した三人は、これからは火球の為に全てを捧げて生きていこうと誓い合った。














丹桂王国のチョコレート菓子とは違い、なんとも言えない安っぽい紙の箱に入っているポッキーを、、、夜天はジッと見つめる。











夜)「星野の初恋ってさー、、、やっぱり"プリンセス"、、なんだろうね、、」









突然、、、ポツリとそう呟く。





大気は黙ったままフワリと笑った。











大)「、、そうでしょうね。まぁ、私達もそうだといわれてしまえばそうなんですけどね」




夜)「まーねー。、、でもさ、僕らはキンモク星では殆どヒーラー達だったワケじゃん?男の、この姿でプリンセスに会った事なんて、あのギャラクシアとの戦いの時の少しと、、子供の頃に1回か2回くらいじゃん?、、しかも相手はプリンセス。本気で恋とか考えられる?」




大)「、、、、、、」




夜)「大体さー、最初に女の子として、セーラー戦士としてプリンセスの側に居ようって言い出したの星野じゃん!女の子の方がプリンセスに寄り添えるし、その方が自分達の為にも良いって言ってさ!大体、プリンセスに恋とかホントに何考えてんのってカンジで、、、、」











夜天はハッと表情を変えた。






隣を歩いていた大気が、、、優しい、しかし今にも泣きそうな切ない笑顔で夜天を見つめていたからだ。












大)「、、夜天。、、、それを言うのは野暮というものですよ。」













それだけ言うと、、大気は再び前を向いて歩き出す。











夕焼け色に染まった土手道を歩く。










この星の茜色の空は、、、何だか優しい「あのお方」に良く似ている、、。









その真っ赤に燃えるような夕焼けに、、、夜天は思わず泣きそうになる。















夜)「、、、僕たちを最初から認めてくれて優しくしてくれたの、、、、プリンセスだけだったね、、」












火球皇女は強い





優しい






それでもいつも笑ってくれた













夜)「星野はきっとプリンセスがプリンセスじゃなくたって、、、恋をしただろうねぇ、、」












吸い込まれるような真っ赤な茜色の空に向かって、、夜天は呟いた。







大気は、、、何も答えなかった。











十番高校の屋上からは、住宅街が一望できる。









この時刻のこの場所は辺り一面が夕焼け色で真っ赤に染まり、見る者が思わずため息を漏らすちょっとした絶景スポットである。











屋上のフェンスに両腕を突いて佇んでいる少年がいた。











先程不自然に教室を出て行った、星野その人である。











星野は美奈子から貰ったポッキーの箱から、摘むように1本だけ取り出した。










そして、チョコレートがコーティングされた部分の半分を、パクンと口にする。















口に広がるのは、、、、あの日と同じ、泣きたいくらいに、、甘い味、、

















ー甘い物を食べたら元気になれるのよー















遠い日を思い出し、星野は思わず茜色の空を見上げた。


















"どんな雑踏の中でも見つけてくれた















あの、流星のように紅色の瞳















、、初恋については、もう何も言わないよ

















俺の大好きだったその優しい瞳で笑ってくれた、、、、あの笑顔に













まだ少しだけ甘く胸を締め付けられていたい"
















吸い込まれるような真っ赤な夕焼け空に、想いを馳せる。












瞳には、、、小さな小さな涙の粒













星)「、、、、、あれ、、、?」













ふいに校庭に目を向けた星野は、思わず目を見開いて二度見した。







部活を終えて帰宅する生徒達に混じり、見覚えのある黄金色のおだんご頭がチラチラと見えたのである。










星)「、、、、おだんご、、?」










星野は思わずその場から駆け出し、急いで階段を下って行った。










うさぎは亜美からの課題をとりあえず切り上げて、一人残った教室を出た。








部活を終えて帰宅する生徒に混じり、両手で参考書を持ち睨めっこをしながらヨロヨロと校庭を歩く。













う)「うーん、、亜美ちゃんが教えてくれた公式がこうだから、、多分これに当てはめてXの値を出さないと、、、とすると、、」



星)「おだんごっ!!」













突然、良く通る澄んだ声が響いた。



思いもしなかった声にビックリしたうさぎは、思わずガバっと顔を上げる。








すると走ってここまで来たのか、ゼェゼェと息を切らした恋人の星野が自分の目の前に立っていた。














う)「あれ?、、せぇやお仕事行ったんじゃ、、」










参考書を両手に抱えてキョトンとした顔をしたうさぎがなんとも可愛らしくて、星野の顔は思わず綻んだ。











星)「、、まだちょっと時間あったから、屋上で時間潰してた。これからまた仕事戻るよ。おだんごは真っ直ぐ帰るのか?」











うさぎの黄金色の髪が夕焼けに照らされ、、キラキラと光る。










う)「うん。亜美ちゃん今日は忙しいみたいだから、家で出来るとこまで進めようって思ってて。、、でも、わからない所多すぎて、、途方に暮れてる、、、」











自信なさげにうな垂れたうさぎに、星野は苦笑いを浮かべた。

そして彼女のおだんご頭をポンポンと撫でる。















星)「うし!じゃ、家まで送るよ!俺で分かる部分は教えてやるからさっ!」



う)「えっ!ほんとっ!?」










パァアっとうさぎは嬉しそうに笑う。










その笑顔が、、、こんなにも愛おしい。
















星)「愛野に貰ったポッキー食べながら帰ろうぜっ!甘いもんは疲れた脳にも良いしなっ!」



う)「うんっ!」













茜色に染まる夕暮れの帰り道を、、、二人は手を繋いで歩き出した。


















"どんな雑踏の中でも俺を見つけてくれた









あの優しい紅色の瞳は特別。










、、、、、そして











どんな雑踏の中からでも見つけられる








この黄金色の髪は







俺が自分で見つけられた、、、たった一つの宝物なんだ"




END