※前回の「友人が不眠症になったお話」からの続きです。

でもって、前回の記事に書いたような、精神生理性不眠症の原因となる潜在意識の問題を友人に簡単に説明して、エミール・クーエさんの自己暗示法を解説した名著『自己暗示』と、自己暗示をするのに使えそうな装置(脳波矯正用磁気発生器)を貸すことにしました。昔々この装置をブログで紹介した記事にも書いたのですが、これを使うと起きているのでもなければ寝ているのでもない、うつらうつらした中間の意識状態(変性意識状態)を意識的に作ることが容易になるのは分かっていたので、それを使って効率よく自己暗示をすることと、好きな時に自己暗示を行うように友人に勧めたのです。もちろん装置がなかったとしても、寝入りばなと寝起きのときに行えば自己暗示はできますし、なるべく同じ時間に規則的にやるのがベストなのですが、友人のようなタイプの人は、この時間にやって!と限定されると意識し過ぎて上手くいかなくなる可能性があります。そこで、ダメならいくらでもやり直せばいいだけ、そして好きな時にいつでもやれる、と思わせる(実際そうですが)ために、特に装置を貸してみたわけですね。

その際に装置の具体的な使い方として、

・快適な姿勢をとって、コイルを頭にはめて電源オン。
・ゆっくり呼吸をしながら、全身の力が抜けているのを実感。
・しばらくして頭がホゲ~ッ♪としてきたら、静かに自己暗示を繰り返す。
・時間は15分くらいやれ。絶対眠るなよ?
・就寝時以外は、そのまま眠らないように必ずアラームをセットし、暗示が終わったら必ず肩回しや膝の屈伸などをして意識を切り替える。
・あとは自分でより良いと思ったように自由にやって。


この程度でしたか。暗示の文句も「私は布団に入るとリラックスして、どんどん眠くなる」「私は毎日ぐっすり熟睡している」のようなものを伝えたのですが、すぐに自分なりに考えた暗示の文句に変えたそうです。

渡した当初は正直、どうせやらないだろうなと思っていたのですが、これが意外に使ったんですね。あとから知ったことですが、試しにと使い始めた当日から変化を感じたそうで、これはいけるんじゃないか?と思ったことから毎日やり続けたそうです。

ちなみに友人はそれから1年以上も暗示し続けて、ようやく問題なく眠れるようになったと納得できるようになっています。時間が掛かっていますね。あとで書きますが、途中で油断した時期があったことも、長くなった原因のひとつだと思います。クーエさんの本では、一発の暗示で驚異的な治療効果を出した話がたくさん載っていますが、訳者のあとがきにあるように、普通はそんな簡単に潜在意識の問題は解決しないと思います。友人のように焦らず、時間を掛けてじっくり取り組む必要があります。


はいでは次に、実際に装置を使って自己暗示を続けた上で、友人が気がついたコツをまとめて書いておきたいと思います。


・自己暗示をするには、ほとんど寝ているような状態が1番、効果的だと感じる。
慣れてくると、うつらうつらした変性意識状態をコントロールして暗示できるのですが、慣れないうちは暗示ができないほどに意識が落ちる…要は眠ってしまうことも多々あります。そこまででなくても、例えば、
「私は布団に入ると、とてもリラックスし、どんどん眠くなる。いつの間にか熟睡している」
と暗示するべきところを、
「私は布団に………西側の大理石に沿って……トマトソースの中身を…………」
などと意味不明な言葉を発していたり、あるいは気がつくと口をモグモグさせて、何か食べていたりすることもあったそうで、意識が落ち過ぎて暗示ができなくなっていたことも、しばしばあったそうです。暗示ができないのは困りますが、逆に言うと、これくらい夢うつつ、覚醒度がギリギリまで下がっている状態が、暗示には良いと感じるそうです。普段の意識に近ければ近いほど、暗示をしたときの抵抗が大きくなりやすく、抵抗があるということは、その暗示が効きにくいだけでなく、逆に状況を悪化させてしまうこともあります。だから暗示をするときの意識状態がとても大切なんですね。

・暗示文の文体はポジティブな表現を使い、そうなりたい、そうなってほしい、という希望ではなく、すでにそうなりつつある、あるいは、すでにそうなっている、という進行形や完了形にする。
これはよく言われる注意点です。ただ、これもポジティブで完了形であれば何でもかんでも全てOK、というわけではないようで、例えば友人の経験で「朝まで熟睡している」という言葉を暗示に入れると、なぜか起床時間の1時間前に目が覚めることが異常に多くなり、「ぐっすり熟睡している」という暗示だと中途覚醒が少なくなり、朝のアラームが鳴るまで眠れることが増えたそうです。
「朝」という単語が何かしら、本人の潜在意識に働きかけているようですが、とにかく暗示文の一言の違いで、結果が変わってくることもあるという例です。なので実際に経験しながら、より良い暗示文を探して変えていくことも必要です。

・暗示をする際には言葉を強調したり、繰り返したり、そこに感情を込めるようにする。
「布団に入ると、とても安心して…」「ぐっすりと」「どんどん眠くなる」という暗示なら、規則的に淡々と唱えるよりも、てぇ~~~も安心して、っっっっすりと、と言葉に感情を込めたり、どんどん↑どんどん↑…と繰り返しで強調したり、その言葉がさも本当であるかのような気持ちになるのがコツだそうです。
この時も大切なのは変性意識状態に入っていることです。暗示を言葉に出したときに、何かしっくりこない感覚とか、ん~本当にこれでいいのかなぁ?という微妙な感じ、あるいは直球で、こんなことやって意味あんのか?なんかアホらしくね??みたいな感じがするときは、変性意識状態に入っていない証拠なので、その暗示は効きにくいです。変性意識状態に入って正しく暗示すれば、疑うこともなく抵抗を感じることもなく、すんなり言葉が入ってきます。

・暗示の効果が出て症状が改善しても、すぐに暗示をやめない。
これは記事の上の方で、友人が途中で油断した時期が…と書いたことに繋がります。友人は3カ月ほど暗示を続けた結果、眠るときにほとんど不安を覚えないほど改善したため、段々暗示の時間が短く、いい加減になっていき、1日2回続けていた暗示は夜の1回に、それもほんの2~3回暗示するだけで面倒臭くなってやめて、そのまま眠る、という状態になっていたそうです。
しばらくは良かったそうですが、ある日、何かのトラブルで興奮していたのと、寝る時間がいつもより遅くなったことが重なった時に、あれ?なんか眠れなさそう…と、ふと感じたら、懐かしい感じ(交感神経の異常興奮)にまた襲われ、その日は真夜中まで眠れなかったそうです(それでも眠れたようなので以前に比べればマシだと思いますが)。その日を境に就寝時にまた以前のような不安に襲われ始めたそうです。その後2~3日は横になっても2~3時間、眠れない日が続いた為、不眠が再発してしまったかと相当焦ったそうですが、実際は以前のようにしっかり暗示を行うようにしたところ、それ以降は特に問題もなく、また眠れるようになった、とのことです。


友人が自己暗示のコツとして挙げてくれたのは以上です。
ついでに私からいくつか補足をしておきます。記事を公開した当初、書き忘れていたこともあるので追加しておきます。

ひとつは不安や恐れの受け取り方ですね。
心は本来、ひとつの事柄に縛られることはなくて、あれを考えこれを考え、コロコロコロコロ移り変わるのが自然です。一回でも強い不安や恐怖を体験すると、そこに意識が凝り固まって、心が不安や恐怖に縛られてしまいます。「今日も眠れないかも…」と不安に思ったときは、もう心が縛られ始めているわけですね。でも縛られるなと言っても縛られてしまうから困るわけです。不眠改善のアドバイスにも、眠れないからと焦らないように、とよく言われますが、焦らないようにしよう!と思って、すぐにそれができる人なら始めから不眠症にはならないです。それにエミール・クーエさんの努力逆転の法則どおり、想像力(焦る心)に反すること(焦らないようにしようとする意志)を成し遂げようとしても、想像力が勝ってしまって、なおさら上手くいきません。
ですから、焦らないようにとか、不安にならないように、なんて考える必要はま~ったくなくて、不安を感じたら不安を感じるままに、
「あぁ、私は今すっごい不安を感じてるな」
焦って心臓がドクドクしてきたら、
「あぁ、私は今、交感神経がバッキバキに興奮してきているな」
と自分自身をモニターして、それを何とかしようとか、それじゃ眠れないぞとか、そうではなくて、
「ハイハイ。いつものことですよ、いつものことだから仕方ない仕方ない。どうぞ気が済むまで勝手にやってください」
と軽く受け流すようなフリをしていくと良いと思います。もちろん最初はなかなか受け流せないと思いますが、いちいち余計な努力などしなくても、自己暗示が深まるにつれて“フリ”だったものが、実際に受け流せている(不安や恐れではなく別のことを考え始めている、つまり心が縛られなくなっていく)ことに気がつき、そして受け流せるにしたがって、感じる不安や恐れが弱くなっていくことに気がつくと思います。これは精神生理性不眠症だけでなく、他の社会不安障害なども同じです。

もうひとつは、解決していないトラブルから大きなストレスを抱え、それが原因で不眠症になっている場合は、最初にまず、そのトラブルを解決していくということです。
これは当たり前の話なのですが、例えば旦那や嫁と泥沼離婚劇とか、質の悪い隣人とのトラブルで裁判沙汰とか、急に大きな借金を背負ってしまったとか、極道や反社絡みのトラブルに巻き込まれてしまったとか、とにかく具体的な問題を抱えていて、それが解決していないことによる大きなストレスが原因で不眠症になっている場合は、いくら眠れるように暗示をしても、まずはそのトラブルを解決していかない限り、なかなか状態が改善されていきません。逆に言えば、そのトラブルさえ解決すれば、勝手に眠れるようになる可能性が高いわけですから、こういう場合は自己暗示をするなら不眠ではなく、問題がスムーズに解決していく暗示や、あるいはトラブルから受けるストレスを軽減するような暗示をしながら、とにかく問題解決を優先していく方が良いと思います。
トラブルを抱えていない場合でも、人の言葉に敏感で傷つきやすいとか、すぐに先のことを考えて不安になってしまうとか、短気でちょっとしたことでイライラするとか、ストレスを感じやすい人の場合は、メインとなる暗示の他に補助として、こういった性質を改善する暗示を加えると良いと思います。

追加で注意点をひとつ。
前回の記事の中で、不眠症を改善するために、あれをしたらいい、これをしたらいい、と言われることをやってみても、そのほとんどは眠るための努力に当たるため、エミール・クーエさんの努力逆転の法則どおり、不眠症を改善するどころか逆に酷くしてしまう…みたいなことを書きましたが、ごく当たり前の改善点まで否定しているわけではありません。
ごく当たり前というのは、例えば夜に眠れないという人にたまにいる、
「夜眠れないからといって昼に眠る、昼夜逆転の生活をしている人」
これは努力して昼間に眠らないように改善しなければダメです。いくら自己暗示を行っても、昼間にた~っぷり眠っていたら夜眠れないのは当たり前の話です。もちろん昼夜逆転の生活をしていた人が、いきなり昼間は1秒たりとも眠るな、と言われても最初はなかなか難しいと思いますが、ごく短時間(10~15分程度)の仮眠であれば眠気や疲労を取るには十分で、しかも夜の睡眠には支障をきたさないので、それ以上は眠らないような努力は必要です。

自己暗示のコツはこんなところかな。
では最後に、不眠症の改善の過程も詳しく聞いてあるので、簡単にまとめて書いておきます。


・自己暗示の初日…強いドキドキ(交感神経の異常興奮)はあったものの、2時間くらいで気がついたら朝まで眠っていた。

・1~2ヶ月目まで…同じようにドキドキする感じはあったものの、ほとんどの日で1~2時間くらいで気がつくと眠っていた。ただ夜中に目が覚めてしまうことが多く、一度目を覚ますと2~3時間眠れないこともあったが、暗示を始めて以降、朝方までまったく眠れないということは1日もなくなった。

・3ヶ月目以降…30分~1時間以内に眠れている日がほとんどで、就寝時に強い不安や焦りを感じることもなくなってきた。中途覚醒も少なくなり、まれに目が覚めても、ボケ~ッとしていればまた眠れる。たまに以前のように不安や焦りを感じてドキドキし始めても、そのうちに忘れて収まっている。

※この辺りで自己暗示がいい加減になったことで不眠がぶり返し、再び自己暗示を始める。

・半年目以降…早いときは10分掛からないくらい、遅くても20~30分で眠れるようになる。中途覚醒もほとんどなく(膀胱パンパンで起きることはあり)、不安や恐れ、ドキドキもほとんど感じないか、感じてもすぐに収まる。ストレスなく眠れていたときの状態に戻ってきた感じ。

・1年目以降…半年目以降からは、不眠で悩まされることはまったくなくなったので、不眠に関する暗示を少し減らし、その他の暗示を加えて行っている。ただ、不眠に関する暗示を完全にやめるのは、まだ少々不安を感じるので、その不安が完全に消えるまで暗示は続けるつもり(なので装置は返さない)。


以上、こんな感じですね。
友人の場合は装置の助けもあったので、わりと順調に暗示の効果が出ています。実際はらせん階段を上るように、あっち(改善)に行ったと思ったらこっち(悪化)に、こっちに行ったと思ったらあっちに、を繰り返しながら徐々に上がっていく(改善していく)パターンが多いかと思います。なので、やってみたけど効果がない!と性急に判断しないことが大切です。苦行のようなものではないので、慣れてくれば毎日の暗示も何の苦にもなりません。むしろ、やる度に気分が良くなります。

それと今回はたまたま友人の不眠症で記事を書きましたが、この自己暗示の利用範囲は相当広く、潜在意識の活用全般に使えます。先ほども書きましたが、性格改善にも大きな効果がありますし、病気治療なんかにも利用できます。感情を上手く利用すると願望実現法にも応用できますね。使い方次第です。

最後に、友人に貸した装置の製作依頼をたまにいただきますが、いろいろと問題があって全てお断りしています。
お貸しすることなら可能ですが、善意で遠方の方にお貸ししたら、その後いくら連絡しても一切返事がなくなるという借りパクも経験済み(笑)なので、直接会って身元が分かる方だけに限定させていただきます。あしからず。