『long road 6』



結婚式を明日に控えた夜

なかなか寝つけずに来てしまった、通い慣れた洋館の前で

桜を散らす夜風に吹かれながら佇んでいると

平和な家族から引き離したくなくて、何度も突き放しては泣かせてしまったことを思い出した

あのころとは全く事情が異なっているとはいえ

明日になれば、今まで大切に育ててきた両親から彼女を奪ってしまうことになる


それでも


裸足のまま腕の中に飛び込んできた、この世にたったひとつの温もりを手放すことなんて出来ない俺は

「朝になったら迎えに来るから」

「うん、あのね…」

今夜、どうしても伝えておきたいことがあったのに

「生まれてきてくれて、ありがとう」

「えっ!?」

言おうとしていたセリフを先に取られてしまっては、星を見上げてため息をつくしかないだろう

「どうしたの?わたし、変なこと言った?」

「いや、べつに…」

「なにかあるならちゃんと言ってってば」

「なんでもねぇよ、しいて言うなら」

「な、なに?」

「浮気はしないでくれよな、奥さん」

「へ?」

キョトンとしている彼女を抱き上げ部屋まで運び、夜道を急ぎ帰る途中

「よお!」

またもや面倒くさいヤツに出くわしてしまった

「結婚式が明日だってのに、こんな時間になにやってんだよ?」

「なんもしてねぇよ、おやすみ」

「ちょ、ちょっと待てよ」

さっさとこの場から離れようとした俺の腕を掴み、男は気持ち悪い笑みを浮かべている

「もしかして、直前になってケンカしたとか?」

「するか、馬鹿」

もしかして、俺はコイツのおもちゃなんだろうか

「あっ、でもさ…あれから考えたんだけど」

「なんだよ?」

「結婚すんのも悪くないかもな、だって好きな時にヤレる…」

手加減したとはいえ 

「あっぶね!」

ヤツを狙った右ストレートが空を切って驚いたのはこっちの方だ

「へへっ、これでもボクシング部で一緒に汗を流した仲間だってこと忘れてないよな?」

「……帰る」

「おう、明日はがんばれよ!」

大きく手を振りながら暗闇に消えて行った男は

「頑張らなきゃいけないのはおまえもだろ」

当分、結婚なんか出来ないような気がした

どうでもいいけどな




fin

※案の定、お誕生日全く関係ないお話になってしまったので別バージョン(?)↓