『long road 5』




「あらっ、まだ起きてたの?」

結婚式の前夜

リビングにいたお母さんから、心配そうに声をかけられた

「うん、なんだか眠れなくて。」

ソファで眠り込んでいるお父さんの方を見ると、その胸にはわたしが小さいころのアルバムがしっかりと抱きしめられていて

「お父さん…」

結婚したってお父さんとお母さんの娘であることには変わりはないのに、こんなにも寂しい気持ちになってしまうのは大切に育ててもらった証拠だよね

そんな感慨に耽っていたら、ますます眠れなくなりそうだったけど

『お肌に悪いから』と言うお母さんに促され、部屋に戻ってベッドに入ろうとした

その時、ふいに

「!?」

どこかから、彼の声が聞こえた気がした

「気のせい、だよね?」

今日は家でゆっくりするように、って言ってくれたのは向こうなんだし

明日になれば式場で会えるんだから、こんな時間にうちに来るわけなんかない…とは思ったけれど

窓の外をそっとのぞくと

「!」

月明かりの中、見覚えのある人影が門の外をゆっくり遠ざかっていくのが見えた

慌てて階段を駆け下りて裸足のまま玄関を飛び出し、かなり離れてしまった影を追いかけると

「なにしてんだよ!?」

ハッとしたように振り向いて、驚いたような声を上げたのはやっぱり彼だった

「だって…」

来てくれるなんて思わなかったから嬉しくて

息が上がって、上手く言葉に出来ないわたしの気持ちは

「靴ぐらい履けよ、馬鹿。」

力いっぱい抱きしめてくれた人にはちゃんと

伝わっているみたいだった




※次回に続きます↓