『long road 4』




周囲の人間に言わせれば

この年齢での結婚は早い方なのかもしれないが

ここに辿り着くまで、ずいぶん長い道のりだった気がするのはきっと

ひんやりとしたシーツの上で、複雑な表情を見せている彼女も同じに違いないから

「わかったよ。」

あと3日くらい我慢できないわけはない

そう、自分に言い聞かせた


数分前


「なんで、ジーンズ…」

思わず声に出してしまった俺に組み敷かれたまま

「なんでって、今日もここで片付けやお掃除をしていたからに決まってるでしょう?」

彼女は呆れたようにつぶやいた


結婚式までの数日間、新居にひとりで寝泊まりすることになったのは仕方ないとして


引っ越し前からバタバタしていて、気づけば半月以上もそういうことをしていなかったのだが

「聞いてる?だから、あの…」

まだなにか言いたそうな唇をキスで塞ぎながら、トレーナーに侵入させた不器用な手で背中のホックを外そうとしても

「ねぇ、ちょっと待ってってば。」

いつものようにすんなり応じようとしない彼女は、珍しくタイトなジーンズを身につけていた

この半年で、ややこしい女の衣服を取り去ることにもそこそこ慣れたつもりでいたが

「……」

さすがにこれは、着ている本人の協力がなければ脱がせるのは大変そうで

しかも、今までのやり取りから察するに

この家で抱きあうのも、正式に結婚してからにしたいに違いない彼女にそれを求めても

「やっぱりダメか。」

「ダメってわけじゃないけど。」

あまり色良い返事はもらえそうにない

「わかったよ、ただし…」

「な、なあに?」

口に出したら後悔しそうなくらい恥ずかしいセリフは飲み込むことにして

「なんでもねぇよ、それよりこの前言ってた注文とやらは結婚前でも聞いてくれるのか?」

「うん、なんでも言って。」

「じゃあとりあえず、明日と明後日はここには来るな。」

そう伝えると、彼女の表情が一瞬で凍りついたのがわかった

「お、怒ってるの?」

そこまでがっついているように見えたのだろうか

いや、見えたんだろうな

「そんなんじゃねぇよ。こっちはもういいから、家でゆっくり体を休めて欲しいだけだ。」

「えっ?」

「あと、ちゃんと親孝行もしとけよ。」

「う、うん。」

あまり納得していない、といった風な微妙な返事をした彼女を抱き寄せ

「頼んだからな、奥さん。」

耳元でそっとささやくと、ようやく明るい声が返ってきた

「はい、旦那様。」



※次回に続きます↓