『long road 2』




「いやー、マジでめでたいよな。」

「もうそれくらいにしとけ、2日酔いになるぞ。」

「いいから、おまえももっと飲めよ。」

「春休み中の大学生と違って暇じゃねぇんだよ、俺は。」


めんどくさいヤツに捕まってしまった


新居への引っ越しを終え、彼女を送った帰りにばったり出会ったのは

「おまえの門出を祝ってやってんのに、野暮なこと言うなよな。」

高校時代の部活仲間だった友人で、前祝いと称して勝手に杯を重ね続けている

「冗談抜きでやることがたくさんあるんだ、悪いがそろそろ…」 

つきあいきれずに席を立とうとしたら腕を掴まれ、更に絡まれる羽目になった

「まぁ待てって、でもよぉ…おまえら、まだ22だろ?結婚なんてちょっと早すぎねぇ?」

「人の話を聞けよ。」

「アイツのことが好きなのはわかるけど、いくらなんでも責任が重すぎるだろ?子どもでも出来たらいよいよ自由がなくなるぜ。」

「それこそ俺の自由だろ。ほっとけよ、この酔っぱらい。」

「まぁ、結婚式に呼んでくれたのは嬉しかったけどな…相変わらず友達いねぇんだな、おまえ。」

「殴られたいのか?」

「あ?プロボクサーが一般人殴ったら重罪だぞ。」

「…ったく。」

完全に出来上がってしまった男をしかたなく家まで送り届け、なんとか新居に帰り着くとどっと疲れが襲ってきた

「ふぅ」

ひとりで過ごすには広過ぎる一軒家のリビングの床に寝転がり目を閉じると、さっき彼女の家の前で交わした会話を思い出していた



「わたしに何か注文ってある?」

「注文?明日の夕食のか?」

「じゃなくて、その…結婚して一緒に暮らし始めたら、わたしにして欲しいこととか逆にして欲しくないこととかあったりするのかなぁって。」

「たとえば?」

「うーんと…ほらっ、出かける前に必ずいってらっしゃいのキスをして欲しいとか?」

「それは、おまえがやりたいことだろ。」

「う、浮気は絶対しちゃダメとか。」

「結婚前から不倫する気でいるのか?」

「たとえば、って言ってるでしょ。」


去年の夏にプロポーズして以来


彼女はずっと幸せそうに、結婚の準備をしているように見えていたのだが

数日前から妙にソワソワした様子を見せ始め、気にはなっていたものの

口下手、不器用、気が利かないの三拍子が揃っている俺は話を聞いてやれてない…だけでなく

「べつに、なんもねぇよ。」

彼女が欲しているであろう答えすら、上手く言葉にすることが出来なかった






※次回に続きます↓
日野くんも結婚できて良かった良かった照れ