個人の勝手な妄想ですので、原作とは一切関係ありません照れ




                        『花嫁衣装』






「欲しいの?雛人形。」



結婚式まであと1か月ちょっとに迫った、3月最初の週末


新居で使う雑貨やキッチン用品を買いたいと言う彼女につきあって、午後からデパートに来たのはいいのだが


「んなわけないだろ、おまえがあんまり待たせるから暇つぶしに見てただけだ。」



女の買い物は、とにかく長い



スプーンだの調味料入れだのを選ぶのに理解に苦しむくらい時間がかかるので、エレベーター近くの休憩スペースで缶コーヒーを飲みながら待っていると


すぐ傍にある売り場に展示してあった豪華な雛飾りが目に入った


「こういうの、ちゃんと見たことなかったから…意外とデカくてびっくりしたんだ。」


「ほんとだ、すごく立派なお雛様ね。」


そういえば


「おまえんちは、雛人形ってあるのか?」


少なくとも俺は見た記憶がない


「それがないの。たぶん、わたしが生まれた頃はまだ人間界の風習とか良く知らなかったんじゃないかな、うちの両親。」


「そうか…そうだな。」


そもそもあの洋館に雛飾りはあまりしっくり来ない気がした


ともかく


「買い物が済んだんならさっさと帰るぞ。」


「はーい。」


大きな紙袋を受け取り、店を出て歩き出したところで


「ねぇ、女の子が生まれたら新居に雛人形飾ってもいい?」


俺の腕に手を絡ませた彼女に、照れくさそうに聞かれてドキリとした


「気が早過ぎるだろ、まだ…」


結婚式すらしていないのに、と言いかけて何かが引っかかった


『女の子が生まれたら』と言った彼女のセリフの前にあって然るべき『将来』とか『もしも』とかいう言葉が無かったことに



まさか、とは思うが



「なあに?わたし、変なこと言った?」


「あ、いや…」


気をつけていたつもりだったが100%ありえない、とは言い切れない可能性が頭をよぎり狼狽えている俺の様子に気がついたのか


「あっ、やだ!違うの、そうじゃなくって…将来、って言うかだいぶ先の話だってば。」


彼女が慌てて、こっちの誤解を否定するように捲し立てた


「紛らしい言い方するなよ。」


「勝手に勘違いしたんでしょ。でも、そんなに動揺しなくてもいいじゃない。」


どうせ来月には結婚するんだから、とでも言いたげな表情でそう言われても


「物事には順序、ってもんがあるんだよ。」


去年の夏にプロポーズして以来、数えきれないくらい抱いておいて言えた義理ではないが


まだ、そこまでは心の準備が出来ていないというのが本音かもしれない


「でも、そうね…男の子しか生まれない可能性もあるもんね。」


「だから、気が早いっつってるだろ!」


まぁ、いい


こんな風に彼女と笑顔で未来の話が出来るのは、数年前の俺たちからしたら考えられないくらい幸せなことに変わりはないのだから


そして


「…も、良かったかもな。」


「えっ?」

 

「いや、なんでもない。」


結婚式はウェディングドレスを準備している彼女の花嫁姿は、きっと世界一美しいに違いないが


さっきの雛人形に彼女の姿が重なって、和装の婚礼衣装を着た姿も見たくなるなんて



さすがにのぼせ過ぎだろうな





fin




※まぁ、息子の卓ちゃんは学生なのに授かり婚なんでアレなんですけどタラーココ卓はココが王女様(生活に困らない)、いとこ同士(両家の親公認)、ココが年上etc…でそこら辺はあんまり気にしなかったのかなぁ笑い


こちらは去年のひな祭り↓