『chocolate 3』
中学の頃は幼馴染くらいしかいなかった恋のライバルも、高校に入ると女の子のファンがたくさん出来て彼の周囲は賑やかになってしまったから
バレンタインデーにチョコレートをもらうくらいは、想定の範囲内で特に驚きはしなかったけど
「時計…直ったの?」
彼の手首につけられた、見覚えのある腕時計には思わず声をあげられずにはいられなかった
「あぁ、安物だけどわりと気に入ってたから修理に出してちょうど今日戻ってきたんだ。」
あまりのタイミングの悪さに言葉が出なくなってしまったわたしの様子に気がついたのか、怪訝な顔をした彼が近づいて来た
「時計がどうかしたのか?」
「ううん、なんでもない。」
と、今さら誤魔化そうとしたって
「俺に隠し事が出来ると思うなよ。」
全部お見通し、だよね
「これ…」
仕方なく鞄からラッピングされた腕時計の箱を取り出して彼に渡すと
「開けてもいいか?」
今さらどうしようもないから頷いたら、丁寧に包装を解いて手にした腕時計をじっと見つめていたかと思うと
「これ、衝撃に強いっていう流行りのやつだろ?せっかく稼いだバイト代をバレンタインなんかで使うなよ、馬鹿。」
呆れたような口調でそう言うと、小さなため息をついた
うっ…
落としても壊れないようにと思って、ちょっと奮発したのはたしかだけど
そんなことより
お気に入りの時計が直ったのなら、わたしが買った物は必要なかったかもしれないっていうのが辛いところで
「ごめんね、失敗しちゃった。」
「べつに、謝ることはないだろ。」
眉間にシワを寄せて大きなため息をつきながら、直ったばかりの腕時計を外すとわたしがあげた時計を腕につけ直し
「こっちはおまえにやる、男物だけどそんなにゴツくないから良かったら使えよ。」
わたしの手首に彼の温もりが残る時計をつけてくれた
「でも…お気に入りなんでしょ?」
だったら、もらうわけにはいかない気がして戸惑っていると
「気に入ってるから、おまえに持ってて欲しいんだけど?」
今夜いちばん嬉しそうな笑顔でそう言うと、わたしの耳元に唇を寄せ
「ありがとう………」
かろうじて聞き取れるくらい小さな声で、名字ではなくわたしを名前で呼んでくれた
「!」
「泣くなよー、頼むから。」
「だって…」
泣かせるようなことを言ったのは彼の方なのにそれは、ズルい
そうだ
「もらったチョコレート、溶かしてケーキにしたら少しは食べてくれる?」
ふいに思いついたわたしの提案に
「了解」
チョコレートより甘いキスで返事をくれた
※次回はいつものふざけたおまけです
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