※このお話は「chocolate 3」から20年後の設定になっていますので苦手な方はご注意を私個人の勝手な妄想で原作とは一切関係ありません
『chocolate おまけ』
「…ったく、なんで俺が隠れなきゃいけないんだよ」
日が暮れ始めた頃、トレーナーの仕事が終わって家の前までたどり着くと
おそらく、デートの帰りなんだろう
庭を囲っている柵の外で中学生の娘とそのボーイフレンドが話し込んでいるのが目に入った
邪魔をしたくない…というより、どんな顔でふたりの横を通り過ぎればいいのかがわからず
玄関に向かうのを避けて、少し離れた場所で柵を飛び越え庭の木の影で息を潜めて男が帰るのを待つことにした
しばらくしてちらっと様子を見てみると、娘が何か小さな箱を渡している
そうか、今日はバレンタインデーだった
誰だよ、こんなくだらないイベント考えたやつ
イラつきながらも、タイミングを見計らって家に入ろうと気配を消して歩きだした時
「!!!」
暗闇の中で、一瞬ふたりの影が重なったのがわかった
「あなた、どうしたの?」
そこからしばらく記憶がなく、気がつくとリビングのソファに座って新聞を逆さまにして読んでいた
「顔色が悪いけど、風邪でも引いたの?」
彼女が心配そうな顔で俺の額に手をあてている。
「…熱なんかねぇよ」
「そうみたいね。あっ、わかった!」
何かを思いついたようにポンと両手をたたいてキッチンへと消えたかと思うと
「はいっ、バレンタインのチョコレート。今年はブラウニーを作ったんだけど、我ながら自信作に仕上がったのよ」
皿に乗せられた平たいチョコレートケーキと紅茶を持って現れた
「なんだよ、わかったってのは?」
「あれっ、チョコレートを1個ももらえなかったから落ち込んでるんじゃなかったの?」
「……」
そりゃあ現役時代に比べたら数が減ったのはたしかだが、そんなことで気落ちすると思われたことの方がショックが大きい
「わたしからじゃ、嬉しくない?」
「そうじゃなくて…」
下手したら泣き出しそうなほど表情が曇ってしまった妻をそっと抱き寄せた
「おまえがいてくれたら、なにもいらない」
自分に言い聞かせるようにつぶやいて、甘い香りのする唇をキスで塞いだ
翌朝
「おとうさん、ニキビって治せる?」
朝食を食べ終わった娘が赤くなった鼻の頭を触っている
「チョコレート食べすぎちゃったなかぁ。昨日もカレが散々からかって触ろうとしてくるんだもん」
「えっ…」
ということは、昨夜のアレはもしかして鼻を触られてただけなのか?
「やーね、ニキビくらいでお父さんの魔力を使わなくったっていいでしょう。薬でも塗ってれば治るわよ」
彼女は食卓を片付けながら苦笑いしているが
「いいよ、治そう」
気分が良くなった俺が娘の顔に手をかざしてニキビを消してやると
「わーい、ありがとう。おとうさん、大好き」
母親とほとんど変わらないくらい大きくなった娘が小さな子どものように抱きついてきた
「あなたって、なんだかんだ言って娘に甘いんだから」
「えーっ、おとうさんはおかあさんにだって甘いと思うけど?」
ちらっと、こっちを見た娘の表情は
昨夜のリビングでのやりとりに、気がついていることを物語っていた
fin
※中学生と大学生の恋愛は令和ではきっとマズイんでしょうねでも、やっぱり私は愛良ちゃんと新庄さんのカップルが大好物です💕(ごめんね、海陸)