『 propose 8(人魚姫)』
                  




今は夏、だったよな?


思わずそんなことを考えてしまうほど、血の気が引いてひんやりとした両腕で

布団の上に横たえた彼女は上半身をガードして緩める気配がない

この手のボクサーはたまにいる

ガチガチにガードを固め、攻撃して来ない相手には手こずることが多く

無闇に攻めてばかりいると消耗した隙をつかれて強烈なカウンターを食らう恐れがあるため、ジャブとフェイントで揺さぶるしかないのだが


セックスにこの理屈が通用するかどうかは未知数だ


とりあえず

「それ、脱いで。」

背中に手を添えゆっくり抱き起こすと

「う…ん。」

彼女はまるで水中から浮上した人魚のように、すうっと大きく息を吸った

「怖いか?」

カーテンの隙間から差し込む月明かりを頼りに、慣れない手つきで着ているものを脱がせていると

「すごく。」

バカ正直に答えた彼女に思わず吹き出してしまった

「おまえさ、こういうことがしたくて『帰らない』って言ったんじゃねぇのかよ。」

「えっと、その…」

「違うのか?」

「ち、違いません。」

少し緊張がほぐれたタイミングでさりげなく唇を重ね、素肌を晒した華奢な体を再び横たえると

「ふっ…」

今度は差し入れた舌を躊躇いがちにではあるが受け入れて、両腕を背中に回して来たため安心して先に進むことにした

ふたりとも上半身はすでに生まれたままの姿になっている

密着している柔らかい胸の感触に体中の血が沸騰していくのを感じながら、なめらかな肌にそっと指を這わせると

「んっ!」

想像していたよりも弾力のある膨らみの頂に触れた瞬間、電流が走ったような反応を見せた彼女にドキリとした

やばい

始まったばかりだと言うのにロープ際まで追い詰められているような感覚を覚え、慌てて体勢を立て直す

暗闇に浮かぶ真っ白な素肌に余すことなく唇を押し当て、時に音を立てるようにして吸い付き舌を這わせると

「…っ!」

今度は両手で顔を覆い、必死で声を押し殺している

「こらっ、声は出してもいいから。」

仕方なく手首を掴んで今にも溺れそうな彼女に呼吸を促す

「でも…」

このアパートの壁が信じられないくらい薄いのは良く分かっている

が、今夜はそんなことは

「どうでもいい、気にするな。」

「えっ…」

恥ずかしそうな声色はもとより

形の良い胸が大きく上下するほどの荒い息遣いにすら、どうにかなりそうなほどの欲情を抑えきれず


人魚姫の素足を覆う、鱗をそっと剥がしていった




continue(次回に続きます)↓