『propose 9(迷宮)』
今は夏だもん
暑いに決まってるよね
分かってはいても、ちょっと心配になるくらい彼の体温は高く感じた
「だいじょう…ぶ?」
そっと手を伸ばして少しクセのある前髪を掻き上げてみると
「なにが?」
動きを止めて真上からわたしを見つめているその額には、やっぱり玉のような汗が浮かんでいる
「汗、すごいから。」
「ああ…」
両腕で何度も汗を拭うと、照れくさそうな笑顔をみせた
「人のこと心配する余裕があるのか?」
「えっ…と。」
余裕なんて全然ない、ないんだけど…すべてを任せてしまっているのがなんだか申し訳ない気持ちになって
「わたしに出来ること、ある?」
そう聞くと
「えっ…」
一瞬、驚いたように目を見開いた彼はわたしの頬を右手の指先でそっとなぞると
「舐めて…」
高熱に浮かされたような表情で、自分の人差し指をほんの少しだけわたしの唇に押し込んだ
「!?」
どうすればいいのかよく分からなくて、甘噛みするようにして濡らした長い指は
「我慢できない時は言え。」
わたしの体の中心にゆっくりと沈められた
「んっ…」
上擦った声をあげそうになるのを止めるため無意識のうちに噛んだ唇は、すぐに激しいキスでこじ開けられて
彼の指先や舌が動く度に聞こえて来る妖しい水音に、頭の中が真っ白になって心臓がものすごい速さで鼓動を刻む
気がつけば
生まれて始めて経験する感覚に翻弄されながら、甘くて恐ろしい感情の迷宮を彷徨っていた
continue(次回に続きます)↓