『request 2』





結局


「薬なんかいらねぇよ。」

そう言い残してお風呂に行ってしまった彼を寝室で待っていると

不機嫌そうな顔をしたままやって来て、無言で隣のベッドに倒れ込んでしまった

「ねぇ、大丈夫?」

そこまで酔っ払ってる感じはしなかったから、これはきっと

「気にいらなかったの?青い薔薇。」

「べつに…」

娘がボーイフレンドにお願いして特別に作ってもらったという薔薇の花束のせいなんだろうけど

「あなたにはちょっとロマンチック過ぎる贈り物だったかしら?」

フォローになって…ないよね

まぁ、明日の朝には機嫌も直るだろうし今夜はそっとしておこうっと

「おやすみなさい、今日はお父さんのわがままに付き合ってくれてありがとう。」

眠ってしまったのか、微動だにしない彼の耳元にそっと囁いた時

「2軒とも…」

「えっ?」

両腕で顔を隠すようにした彼が小さな声で話し始めた

「俺に払わせてくれなかったんだ、お義父さん。」

「そ、そう。」

「頑なに『自分が誘ったんだから』って言い張って…ったく何のための父の日なんだか。」

「いいんじゃない?あなたと一緒に外で飲めただけできっと嬉しかったのよ。」

彼の気持ちも分かるけど、そんな気に病むようなことじゃないと思うんだけど

「おまけに俺は…」

ため息混じりにこんな風に話し続けるなんて、もしかしてほんとはかなり酔ってる?

「お義父さんみたいに娘の恋愛に寛容じゃねぇしな。」

「へっ?」

えっと、これはやっぱり

「ちょっと待ってて。」

泥酔してるに違いないから、お水を持って来てあげようとしたら

「そんなに酔ってねぇよ、馬鹿。」

「えっ!」

突然、わたしの腕を掴んだ彼が

「やるよ。」

起き上がってリボンのかかった小さな箱を差し出した

「な、なあに?」

なにがなんだか、わけがわからなくて戸惑っていると

「もうすぐお義母さんの誕生日だろ?」

明後日の方向に話が飛んでしまった

「う、うん。」

たしかに6月26日はうちのお母さんの誕生日だけど

「飲みに行く前にお義父さんが誕生日プレゼントを買いたいって言うから一緒にデパートに行ったんだ。」

「そう、だったの。」

だからって、なんでわたしにまで?

「父の日だから、な。」

そうよ、今日は父の日だもん

「わたしがプレゼントもらうなんて変じゃない?」

「そうかもな、でも。」

掴まれていた腕を引かれて温かい胸に抱きしめられたかと思ったら

「俺を父親にしてくれたのはおまえだろ。」

アルコールの匂いが残る優しい口づけが降ってきた

  



continue(次回に続きます)↓


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