『tempest 3』
「なにをしてる!」
背後から俺が声をかけると
『キー』
奇妙な叫び声をあげて振り向いた女は
「えっ…」
漆黒のマントに身を包み、真っ白な肌に真っ赤な目をして唇から鋭いキバをのぞかせた
「ヴァンパイア、なのか?」
だとしたら魔界人…つまり彼女の父親と同じ種族のはずだが、それにしてはあまりにも敵意を剥き出しにした邪悪なオーラを漂わせている
「おまえが誰か知らねぇが…」
そう話しかけた瞬間
「…ってぇ」
もの凄い力で黒板に体を叩きつけられた
油断していたとは言え俺が簡単にやられるなんて、こいつがただのヴァンパイアでないのは間違いなさそうだ
そして
話が通じる相手ではないということも
しかたない
窓ガラスが割れ、強風が吹き荒れる教室の中を飛び回る小枝や石に傷つけられながら女の思考を読み取ることに集中する
今から数百年前
南の島にある小さな村で、不死身の肉体を手に入れるため人の生き血を飲んで暮らしている「人間」の一族がいた
ある夜
人間の生き血を狙って魔界からやって来た本物のヴァンパイアの集団と遭遇して争いとなり
結果
一族は次々とヴァンパイアに生き血を吸われて命を落とし、風や煙に姿を変えて永遠に空中を漂い続けることになった
その中のひとりの魂を宿した風が、南の島で発生した今回の台風に乗ってここまで辿り着き
偶然、一族を滅ぼしたヴァンパイアの末裔である彼女を見つけて仕返しをしようとした…ということか。
「彼女は関係ないだろう…さっさと失せろ、化け物!」
持てる限りの力で荒れ狂う女を抑え込もうとするものの
数百年にも渡る長い年月の間に増幅された怒りと怨みに満ちたパワーは凄まじく、一筋縄ではいかずに苦しんでいると
「馬鹿、来るな!」
彼女の気配を近くに感じ、慌てて制止したが間に合わず
「やめろ!」
宙に浮かされた彼女の細い腕を必死に掴むと残っていたすべての力を振り絞り、天空に渦巻く台風の中心へ邪悪な魂を吹き飛ばすと
鼓膜が裂けるかと思うほどの断末魔に満たされた漆黒の闇に包まれ、必死で彼女に覆い被さり嵐が過ぎ去るを待った
しばらくすると
割れた窓から吹き込んでいた激しい風雨はピタリと止んで
腕の中にしっかりと抱きしめていた彼女の頬を、柔らかい光が照らし始めた
continue(次回に続きます)↓