『share 5』




「遅くまで付き合わせて悪かったな」

小さな画用紙に描かれた似顔絵は思っていたよりずっと彼女にそっくりで

持っていたスポーツバックに大切に入れると彼女を家まで送り届けた

「じゃあ、またな」

門の前で繋いでいた手を離すと、彼女は泣きそうな顔で俺の顔を見上げた

「こんなのプレゼントって言えないよ、だってわたしが描いたわけでもお金を払ったわけでもないんだもん」

似顔絵のモデルになったくらいでは納得がいかない、と目で訴えている

「これで充分だ。さっさと家に入って休まないと明日遅刻するぞ」

そう言って背中を押そうとした俺の右手は

「やっぱり、今でも『そんな気』にはならない?」

こっちを向いた彼女の両手に捉えれ、ひんやりとした白い頬に押し当てられた

「え…?」

思ってもみなかった言葉に驚いて黙っていると

「ごめんなさい、変なこと言って…おやすみなさい。」

手を離し足早に立ち去ろうとした彼女を追いかけ、腕の中にきつく抱きしめた

「今でも…って、どういうことだよ?」

「だって、前に言ったじゃない…『ガキなんかにその気になるかよ』って」


ちょっと待て


「いったい、いつの話だよ?」

「わたしが夢の中から外国に行っちゃってみんなに心配かけた後、ポケットの中の指輪を取ろうとして…」

言われてみればそんなことがあったような気もするが、女の記憶力ってのは本当に恐ろしい

「いちいち昔のことを持ち出すな」

「だって…」

腕の中でこんな風に拗ねられては手も足も出ず、思わず本音をこぼしてしまった
 
「最後の最後まで迷ったに決まってんだろ」

事実

日によって場所を変えていると言っていたあの似顔絵師が、今夜あそこにいるという確信があったわけではない

もしも見つけられなかったとしたら、誘惑の多いあの通りの雰囲気に飲まれてきっと

「ほんとに?」

驚きながらも嬉しそうな彼女の表情に

「たぶん、な」

なんとかはぐらかそうとしたものの

澄み切った瞳に映った男の表情は情けないくらいに余裕がなく…優しく首に回された細い両腕に促されるまま


この世でいちばん甘いプレゼントを受け取った





continue(次回に続きます)↓

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