※このお話にはオリキャラが登場しますのでご理解の上でお読みください。
『distance 1』
ジムでトレーニングをした帰り
「あっ…」
街中にあるスポーツ用品店で買い物をしていると、一緒にいた彼女が小さな声をあげた
「どうした?」
「いま流れてる曲、すごく好きなの」
言われてみれば、店内の有線放送で最近よく聴く女性歌手の歌がかかっている
が、あらためて耳を傾けてみると
「失恋の歌だろ?これ」
曲調こそ明るいものの、春の卒業シーズンによくある別れの歌だ
「うん、遠距離恋愛で別れちゃう曲」
「ふーん」
その曲が終わるまでじっと聴き入っていた彼女を家まで送る途中、タイミングを見計らって言い出しにくいことを口にする
「あのさ、来週から4月の頭までバイトとジムの合宿で予定が埋まってて…」
「あっ、うん。春休みに新しいバイト始めるって言ってたよね?」
だいたいのことは数日前に話していたからか、明るい口調の返事にほっとしたが
「全然、会えない?」
やはり、どことなく淋しそうな表情の彼女に何故かさっき聴いた曲の内容を思い出してしまい言葉に詰まった
合宿は月末の3日間だけだが、その前後に行く予定のバイトは拘束時間が長く帰りも遅くなりそうだった
短い時間なら会えないこともないだろうが
「約束はできないから」
ようやく絞り出した言葉は冷たく聞こえるかもしれないが、変に期待を持たせてぬか喜びさせる方が可哀想だと思った
「そっか、そうだね。うん、わたしは平気だから…あんまり無理しないでね」
ちょうど彼女の家の前に着いた時、俺の顔を覗き込むようにして笑顔でそう言われると
逆に物足りない、と感じるのは男のわがままだろうか
「あんまり物分かりが良すぎるのも可愛いくねぇぞ」
春らしいデニムのワンピースの肩に手を置いて耳元でそう囁くと
「送ってくれてありがとう、おやすみなさい」
珍しく、彼女の方からそっと唇を重ねてきた
continue(次回に続きます)↓