『last christmas 4』






「ありがとうございました。」


12月24日の午後7時を過ぎたころ

ようやく最後のクリスマスケーキがお客様の手に渡り

ほぼ一日中、屋外で働いていたわたしの体は氷のように冷え切っていた

「さて、と。」

感覚の無くなった両手を吐く息で温めながら雪がちらつき出した夜道をわたしが向かった先は

「おじゃまします…」

主のいない彼のアパートの部屋だった


一昨日の朝


『悪いことは言わないから、クリスマスは家族とゆっくりしてろ。』

見送る時に念を押すようにわたしの耳元に唇を寄せてそう言った彼のいいつけを破ってしまうと分かっていても

今夜は彼の部屋にいたかった

そもそも

彼には言ってないのだけれど、今夜うちの両親は商店街の福引で当たった温泉旅行に行っているし中学生の弟は友達の家のクリスマスパーティで遅くなるって聞いていた

つまり、家に帰ってもどうせひとりなんだもん

だったら

少しでも彼の温もりを感じられる場所で過ごしていたかった


雪やクリスマスで思い出すのは、魔界の王子として赤ちゃんになってしまった十五歳の彼がわたしの前から突然いなくなってしまった日のこと


その後、再び人間になってしまった彼が行き先を告げずに姿を消した日もこんな雪が降っていた

いつもいなくなる直前に彼に抱きしめられたということを、頭ではなく体が覚えていて

だから、出かける前にわたしを腕に抱こうとしていた彼を無意識のうちに避けてしまったのかもしれない
 
もう二度と離れ離れになることなんてないって、ちゃんと分かってるのに

「幸せ過ぎて不安になるなんて、贅沢な悩みだよね。」

真っ暗で底冷えのするアパートの部屋に入ると、疲れきっていたわたしはコートを着たまま炬燵の前に座り込んで瞼を閉じてしまった

室内なら眠ってしまっても凍死なんてしないはず

たぶん

きっと





continue(次回に続きます)↓