『last  christmas 5』





クリスマスイブの夜


彼女の家に電話をするため俺が受話器を取った場所は、宿舎ではなく駅前の公衆電話だった

予定では明日、25日の夕方に帰るはずだったのだが現地に大雪警報が出たため交通機関が止まってしまう恐れから急遽一日早く切り上げ帰宅させられる羽目になり

どちらにせよ、こんな夜更けに会いに行くつもりもないが帰って来たことだけは伝えておきたいと思い電話したところ

『もしもし…』

思いがけず受話器の向こうから聞こえてきたのは彼女の弟の声だった

「姉貴はどうした?」

『お姉ちゃんならまだ帰ってないけど、一緒じゃないの?』

俺が合宿に行くことは家族には言ってないのだろうか?

『っていうか、お父さんたちは温泉に行っちゃってるし…僕もさっきパーティから戻って来たばかりで。』

ここに至って、初めて俺が考えていたクリスマスとは全く違う状況に彼女がいるということを知り頭を抱えた

まさか、本当に俺のアパートに?

『お兄ちゃん?』

「いや、悪かったな。俺の勘違いだ…姉貴のことは心配しなくていい。」

電話を切り、雪がうっすら積もり始めた道を急ぎアパートへ帰り着くと

部屋の鍵が開いているにも関わらず明かりはついていなかった

「おいっ、大丈夫か?」

コート姿で炬燵の前でうずくまるようにして眠っている彼女に駆け寄り、慌てて抱き起こすと

「あれっ、どうして?」

「雪のせいで一日早く帰って来た…って、そんなことはどうでもいい。なんでこんな…」

『こんなところにいるんだ』と俺が言い終わる前に。

「!!」

彼女がものすごい勢いで俺の背中に手を回し抱きついて来た


まるでこの前の明け方のように


「いったい、どうしたんだよ?」

その時、時計の針が重なり合う微かな音で日付けが変わったことを知り…以前、彼女がクリスマスは『俺のもうひとつの誕生日』でもあると言ったことを思い出した

「クリスマスは、良い思い出ばかりじゃなかったな。」

俺の言葉に我に返ったのか彼女は驚いたように顔を上げた

「あのっ、違うの…そんなつもりじゃなくって。」

「とりあえず、風呂に入れ。」

「えっ?」

「このままじゃ、凍死するぞ。」




continue(次回に続きます)↓
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