『cherish 5』
どう見ても乗り気でなさそうな彼と並んで座り本編が始まってしばらくすると、触れている手の温もりから体温が上がっていくのがわかり
そっと隣を見るとやっぱり彼はすでに目を閉じて眠っているようだった
季節的に冷房も暖房も入っていない館内はそれでもどちらかと言うとひんやりしていて
起こさないように持って来たブランケットをバックから取り出して彼の肩から上半身を包むように掛けてあげて
わたしはほっと胸を撫で下ろした
短い時間でも彼が眠ってくれるということに
甘酸っぱい恋愛映画が終わりエンドロールが流れ始めても彼はまだ眠り続けていた
「映画、終わったよ」
「えっ?」
腕をそっと揺らして起こしてもすぐには状況が飲み込めていないようで
「映画館だよ、覚えてる?」
「ああ、ごめん」
しまった、というような顔をしながらわたしを見た後、胸元にあるブランケットに気がついて大きなため息をついた
「映画とっても良かったよ…でも男の人には退屈だったよね、寝ちゃっても仕方ないよ」
そう言って立ち上がったわたしの腕を掴み彼は何か言いたそうだったけれど
「とりあえず出よう」
わたしの手を取り映画館を後にした彼は黙ったままで歩き続け
もしかして怒ってる?
「ねぇ、どこに行くの?」
わたしのデートプランでは次はふたりでお買い物に行って、この前はダメだと言われた彼のアパートでご飯を作ってあげる予定だった
そのためにバックにはエプロンも入れているから荷物が多くなってしまって
「やっぱり…な、そんなことだろうと思った」
彼は立ち止まってそう言うと
「悪いけど、次は俺の行きたいところでいいな?」
「あの、行きたいところって?」
もうそろそろ夕方になろうとしているのに、彼は再びわたしと電車に乗ってどこかに向かおうとしていた
continue(次回に続きます)↓