『cherish 4』




出だしからこんなに調子の狂うデートがあるだろうか


たまたまジムで袖を通したジャージのポケットに入っていた小さな巾着袋

おそらく彼女の物だろうと思って手渡したら盛大に泣き出されてこっちは呆然とするしかなく

「いったい何が入ってるんだよ、それ。」

仕方なく彼女の背中をそっと撫でながら落ち着くのを待って聞いてみると

「これなの。」

彼女が取り出して見せてくれたのは見覚えのあるアクセサリーで

「ずっと捜してたの…見つからなかったらどうしようって不安で不安で。」

なるほど

ここ最近いまひとつ彼女の元気がなかった理由はこれか

「悪かったな、もっと早くに気がつかなくて。」

「ううん、見つかってほんとに嬉しい…今、つけてもいい?」

返事をする変わりにペンダントを彼女の手から取って首につけてやるとようやくいつもの笑顔を見せてくれた

「ありがとう。」

「…どういたしまして。ところでそろそろ出かけないか?」

このままでは彼女の家の前で日が暮れてしまいそうだ

「うん。」

どちらからともなく繋がれた手を引いて電車に乗り、たどり着いた映画館で彼女が見たいと言った映画は

「恋愛映画?」

「そう、前から見たいなぁって思ってて。」

にっこり笑って彼女が指し示したポスターは見るからにアイドルのような若い男女の甘ったるそうなラブストーリーで

多分、いや絶対に俺が苦手なタイプの映画だ

「ほんとにこれがいいのか?」

「うん、これがどうしても見たいの…お願い。」

そこまで言われてしまうとダメだとは言えず

チケットと飲み物だけを買って中に入ると観客はまばらで、後ろの方の座席に並んで座ると彼女が俺の手に手を重ねて小声で囁くように言った

「ごめんね、わがまま言って。」

「いいよ、おまえの行きたいところでいいって言ったんだし。」

「ほんとにありがとう。」

そう言って俺の肩にもたれ掛かるように頭をつけた彼女の温もりで徐々に眠気を感じ始めてまずいと思った


continue(次回に続きます)↓