『remember 4』
『無理して思い出さなくてもいいからな。』
そう言っておきながらずいぶん強がった台詞を吐いたものだと自分自身に嫌気がさした
本当は今すぐにでも思い出して欲しかった
いや、俺の姿を見ればすぐに思い出してくれるのではないかと心のどこかで高をくくっていた
いったい何があったのかは知らないが彼女が俺のことを忘れてしまうなんて絶対にありえないという自信があったのに
彼女の中から俺の存在が消えてしまうなんて、どうすればいいのか分からないほど混乱している
とはいえ
俺にはやらなければいけないことがあり、彼女の家を後にしてジムとアルバイトをこなしアパートへと戻る途中で
近所の公園に張り出されている一枚の掲示物に目が止まった
「夏祭り…か」
週末にここでやるらしい夏祭りに彼女を誘ってみようか
12歳の精神状態の彼女が知らない男と出かけてくれるのかという不安もあったが、何でもいいから記憶を呼びさますきっかけが欲しかった
翌日、再び彼女の家を訪れてまだ記憶が戻っていないことを確認すると週末の外出を持ち掛けてみた
「お祭り?」
「良かったら一緒に行かないか?」
「えっと…」
戸惑っている彼女の背中を弟が押してくれる
「お姉ちゃん行って来なよ、きっと楽しいよ。」
「う、うん。」
とりあえず承諾してくれたことに胸を撫で下ろし、迎えた祭りの当日
無理を言ってバイトを早めに切り上げ、家まで迎えに行くと玄関先に現れた彼女を見て息が止まるほど驚いた
濃紺の浴衣に身を包みアップにした髪には花飾りがあしらわれ、薄化粧を施した姿はあまりに妖艶で美しく
「あの、お母さんが着せてくれて…」
恥ずかしそうに下を向いて呟く幼さの残る話し方に、見た目は大人でも中身は未だ12歳のままなのだという現実に引き戻され気持ちを落ち着かせる為に深呼吸をした
いつもなら黙って繋いでしまう手も
「その格好だと歩きにくいだろうから…転ばないように手を繋いでもいいか?」
彼女の同意を取ることにした
「あっ、はい」
素直に差し出された手を優しく握り、祭りの会場までゆっくりと歩き始めると彼女が少しずつ話し始めた
continue(次回に続きます)↓