「悪いけどしばらく会えないかもしれない」
彼が申し訳なさそうにそう切り出したのは先週の日曜日
夏休みに入るから夜遅くまでのアルバイトを増やしたのと、ボクシングの試合に向けてトレーニングも本腰を入れて頑張りたいから…と
まっすぐにわたしの目を見て説明してくれた彼の言葉に疑う余地は1ミリもなくて
わたしが差し入れを持って行く事さえ拒んだのは
「せっかく来てくれても会えないだろうし、送ってやれないと心配だから」
わざわざバイト帰りに寄ってくれたわたしの家の前で、優しく抱きしめて囁いてくれた言葉にも絶対に嘘なんてない
けれど
「お姉ちゃん、どうかしたの?」
彼に会えなくなって持て余した時間を弟と過ごすようになり、今夜も一緒にテレビを見ていると急に腕をつつかれてそう聞かれてしまった
「えっ?ううん、どうもしないけど」
「さっきからずーっとぼんやりして、心ここにあらずって感じなのに?」
「む、難しい言葉を知ってるのね」
そして、するどい
「お兄ちゃんと何かあったの?」
「なんにもない、ない。ほんとだって…ただ」
「ただ?」
うー、困った
「まぁ、僕が聞いても仕方ないよね。不安なことがあるならちゃんとお兄ちゃんに聞いてみれば?おやすみなさい」
ほんとにこの子は小学生なのかな?
っていうより、これじゃあわたしの方が完全に年下
でも
そうだよね
普通に聞いてみればいいんだよね
昨日どうしてペット美容室なんかにいたの?って
きっと拍子抜けするような答えが返って来るってことは、本当は聞かなくったってわかってる
問題なのは
それを直接たずねる機会がしばらく無いかも知れないってこと
そしてやっぱり気になってしまうのは
彼が知らない女の人にあんなに無防備な笑顔を向けていた理由
ああ
やっぱり今夜も眠れそうにない
continue(次回に続きます)↓