記憶の奥で(11) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

「いやっ!」


ドンッと身体を押しやり、珠洲は唇をかみ締めて克彦を見つめる。

泣きそうな顔に、一瞬ためらいを見せたがもう一度

珠洲を自分の腕の中に引き寄せた。


「離してくださいっ」


「離したら逃げるだろう」


腕の中で、もがく珠洲に克彦は少し苛立ちながら言葉を放つ。

それでも珠洲は克彦から逃げようとジタバタと動く。


「壬生先輩!」


「克彦だ!」


ベットに押し倒し、下から悲鳴のような声を上げた珠洲に

克彦も大声で告げる。

見上げた形で克彦を見つめると、苦しそうな顔で珠洲をじっと見つめる。


「俺は・・・。何を忘れているんだ?」


「克彦さ・・・ん」


「お前は俺にとってなんだ?」


視線を逸らすことすら許されない瞳。

珠洲はどう答えたらいいのか分からない。

言ってしまうのがいいのかもしれない。


だけど――


「珠洲」


初めて、記憶をなくして初めて呼ぶ彼から私の名前に

ドクリと心臓がはねる。


「俺は・・何を忘れているんだ?」


「克彦さ・・」










「克彦!」






がらりと保健室の扉が大きく開き、聞こえてきた声に慌てて

声の方へ顔を向けた。


「・・・邪魔が入った」


小さく舌打ちした後、珠洲と離れ起き上がると

カーテンを乱暴に開いた。


「大丈夫なの?具合が悪いって・・」


「子供じゃない。イチイチくるな」


「イチイチって・・・」


現れたのは絢乃だった。

そんな絢乃の後ろに立っていたのは。


「あなたが呼んだんですか?」


「一応、あなたの婚約者には報告しなければいけないと思ってね」


亮司は、苦笑し答えた。


「何か?」


「いいえ。もう帰ったほうがいいと思ってね。担任には報告してある」


「・・・・・・・」


無言のまま亮司を見る克彦の表情は鋭利な刃物のような鋭さで

そんな克彦の表情を見ても亮司は顔色一つ変えず

笑顔を浮かべて、もう一度帰るように促した。


「・・・・俺に記憶が戻るのがいやなのか?」


「まさか。変なことを聞くね」


心外だといわんばかりに、肩をすくめ克彦へ視線を送り

隣で心配そうに見ている絢乃へ視線を向けた。


「彼をお願いしますね」


「はい・・。いろいろとありがとうございます」


ぺこりと頭を下げる絢乃を、克彦は何も返事を返さずそのまま

保健室を後にした。


「もう、いいよ」


二人がいなくなった後、亮司は閉められていたカーテンを開くと

ぼろぼろと涙を流して亮司を見上げている珠洲の姿が映った。


「亮司・・・さん」


「大丈夫かい?」


「克彦さん・・・・苦しそうでした」


「・・・・」


背中をやさしく撫でる亮司に、涙を流しながら

珠洲は震える声でつぶやいた。


「私・・・。一人だけ苦しいって思った・・・でも」






「俺は・・・・何を忘れているんだ?」





あの悲痛な顔が声が頭から離れない。

















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あとがき

そろそろラストスパートですよ~~。(*^ー^)ノ