記憶の奥で(8) | As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

As lagrimas que a lua derramou~月が零した涙

版権作品にオリジナル人物を入れての二次創作小説を載せてます。
『遙か』シリーズが中心です

白い世界に一人たたずむ。


それがどこなのかすらわからなくて。


しばらくその場に立ちつくす。


すると、白い世界の中に何かが移る。

目を細めて見つめると女性のようだった。






私・・・・・・




「お前は」




こんなに近くいるのに、顔がわからない。

だけどこんなにも心が落ち着いているのがわかる。

そっと手を伸ばすと、その女はすうっと俺から距離を置いた。

その行動だけで落ち着いていた心がざわりと騒ぐ。




お願い・・・・



「なぜ逃げる・・・。お前は俺の・・・」




     さん



「お前は」


























「兄ちゃん。気がついた?」


俺の顔を心配そうに覗き込み声をかける小太郎の姿。

けれど俺はまだ夢の中に居るようで

あたりをきょろりと見渡すが、小太郎以外姿はない。

鬱陶しいほど俺の周りに居る綾乃の姿すら見当たらない。


「兄ちゃん?」


「―――なんでもない」


短く返事を返すと、小太郎は肩をすくめ口を少し尖らせたが

何かを思い出したかのように、使っている鞄をガサガサとあさり始めた。

何をするのかわからないままじっと見ていると

小太郎は満面な笑顔を俺に向けて鞄の中から出したソレを差し出した。


「・・・・・・・なんだこれは?」


「何って・・・見てわかるだろ?」


それは小さなピンク色の花。


「【ローゼンセ】っていうんだってさ」


きれいだろう?と俺に差し出す。


「・・・・なぜ俺に?」


「見舞いだって、珠洲が」


小太郎の口からでた名前に、思わず眉を寄せた。

意識を取り戻した瞬間、俺の姿にほっと胸をなでおろし

少し、寂しそうに微笑んだあの―――。


「珠洲がさ、兄ちゃんが早くよくなるようにって、庭で育てている花を持ってきてくれたんだ。

 本当は、直接家に持ってきたかったみたいだけど。

 なんか用事があるからって、俺に渡すようにって」


自分のことのように嬉しそうに話す小太郎の姿を見ながら

受け取った花をじっと見つめる。




きれいでしょ?   克彦さん

これは



「どうしたのさ。兄ちゃん」


「しばらく休む。部屋から出て行け」


「・・・・・わかったよ」


有無を言わせない俺の言葉に、何か言いたげな小太郎だったが

素直に俺の言葉に従い部屋を出て行く。



これはなんだ?








「俺はいったい、何を忘れているんだ?」


















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あとがき

お話も中盤へ入ってきました。そろそろ二人での会話を出したいですね。


花言葉

ローゼンセ:変わらぬ思い