その日は雨だった。
何もする気になれずにいたけれど。
なんとなく家にいるのは嫌だったから外へでた。
そんな雨の中傘を差してきょろりと辺りをうかがうようにしている人物が目に入った。
「どうしたんですか?」
香織は恐る恐る訪ねると
外套を被っていた人物は振り向きにこりを笑みをたたえた。
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「そうですか・・・。知り合いの人が」
「ええ。それでこちらへ立ち寄ったのですが」
その人物は香織ににこやかに微笑を浮かべながら差し出されたお茶を飲む。
銀とは違ったその風貌。
けれども整った顔立ち、やわらかな物言い。
なにより微笑みを浮かべながら告げる彼の言葉に
頬が赤くなってしまうのが分かる。
(な、なんで・・・)
「そういえばお名前を伺ってませんでしたね。僕は弁慶といいます」
「あ・・。私は香織です。それでお知り合いというのは・・」
「すみません。こちらの村に銀と名乗る人がいませんか?」
「銀さんのお知り合いですか?」
「ご存知でしたか。ええ・・。彼に用がありまして。案内いただけますか?」
「は、はい」
弁慶の願いに香織は慌てて立ち上がり
銀の住んでいる家に案内に向かう。
この弁慶との出会いが銀と香織に新たな人物との出会いを齎すことを
このときの香織が気がつくこともなかった。