「そう・・・・。私には悟浄の瞳も髪も・・・・愛おしい紅い色
だから忘れないでね」
行こうと、告げ掴まれた腕をゆっくりと離すと
咲弥は先に掛けていく
呆然としたのは悟浄で
何も考えられなかった。
『私には悟浄の瞳も髪も・・・・愛おしい紅い色
だから忘れないで』
まっすぐに本当にまっすぐに向けられた視線
それが偽りではなく。彼女の本心からの言葉
口に手をあてた。動揺しているのが分かる。
「マジ・・・かよ・・・」
こんなに心臓を鷲掴みにされたのは初めてで
奪われたのも初めてだった。
(ヤッベェ・・・マジで惚れそう・・・)
悟浄より先に家の前につき咲弥は足を止める。
「誰にも貴方達を否定させない・・・・たとえ・・・あの人にでも・・」
深呼吸をしつぶやくと
勢いよく扉を開く。
「遅いですよ。咲弥」
「・・・・無くなっても、文句を言うなよ」
「ほへーよ。ふぁふや」
がつがつと食べながら話す悟空に
三蔵のハリセンが当たる。
「悟浄はどうしました?」
「おいてきちゃった」
「・・・・なにか、あったんですか?」
少し視線を外し答える咲弥の口調に八戒は訝しげに
尋ねる。
「ちがうよ・・・。約束なの・・・悟浄とね」
「そう、ですか・・・」
恐らくこれ以上は何も答えてはくれないと感じた八戒は
自分の食事を再開する
それを見習う形のように咲弥も食事を開始し始めた。
「あれ?旬麗さんは?」
「洗濯にいきましたよ」
「そう・・・でも、よくみんなのサイズの服があったね
彼女一人暮らしのはずよね」
「ええ・・・・」
「コレは、慈燕のものさ」
「じえん?」
「旬麗の恋人だったひとだ」
半は、ちらりと外で洗濯をしている旬麗を見ながら話し始める
昔彼女には慈燕という恋人がいた
彼は妖怪だったが、彼女とも中むつまじく暮らしていた
その折、妖怪の変貌
それは慈燕も同じで、彼がまだ理性があるうちに、この家から出た
「あの子は、それでも慈燕の帰りを待って
寂しさを紛らわせるためにしているんだよ」
少し涙ぐむ半そのとき
カタンと音が聞こえそこへ視線を向けると
悟浄が目を見開いて、立っているのが解る。
動揺を隠しきれてないその姿に咲弥も三蔵も八戒も眉を寄せる。
「ジエン?その男・・・慈燕っていうのか・・・」
「ああ・・・・四年前にこの村に着たからね
本名かどうかは知らないけれど・・・あんた
知り合いかい?」
「いや・・・どうだろうな・・・」
歯切れが悪いまま席に就くことなく
再び出て行く、悟浄を咲弥は黙って見送り目を伏せた。